前橋育英vs横浜
横浜の試合プランを打ち砕いた前橋育英打線
今年の選手権大会は大阪桐蔭、仙台育英、浦和学院といった優勝候補と期待された学校がすべて敗れている。そして優勝を期待される激戦区・神奈川を勝ち抜いた横浜が登場だ。
相手の前橋育英は高橋 光成(2年)。ここまで2試合連続完封をしているが、スコアは2試合とも1対0。見方としては前橋育英がかつのであれば、少ない得点をもぎ取り、高橋光が守り抜くというプランを考えていたが、そのゲームプランを見事に打ち砕く強打を見せる。
前橋育英は徹底として横浜のエース・伊藤 将司(2年)対策をしていたのか、伊藤の直球に狙い球を絞っていた。まず1番工藤 誠也(2年)が外角直球を押し込んで左中間のフェンスを破る二塁打でいきなり先制のチャンスを作る。2番田村 駿人(3年)が一塁前へ犠打。これを横浜の一塁・渡辺 佳明(2年)が猛チャージで三塁へ送球し、アウト。流れを切る良いプレーだと思っていたが、前橋育英は手を緩めることなく、伊藤を攻略する。3番土谷 恵介(3年)が右前安打を放ち、一死一、三塁。一塁走者の田村がよく三塁に陥れた。これが実によい走塁であった。そして4番荒井 海斗(3年)が内角直球を右前安打を放ち、1点を先制する。さらに小川 駿輝(3年)も右方向へ安打。土谷が生還し、2対0とする。
高橋 光成(2年)は過去2試合に比べるとここまで投げた疲労の蓄積もあり、球速は130キロ中盤。いきなり1番の川口 凌(2年)に左前安打を打たれる。だが高橋光を救うプレーが出る。2番松崎 健造(2年)の犠打は捕手前へ、これを捕手の小川がダッシュし、二塁ヘ送球。素早いプレーにより松崎もアウトで、なんと併殺に。これで高橋光は救われ、初回は無失点に。高橋光は2回裏に伊藤に左前適時打を打たれ、1点を失うがも、丁寧な投球ができていた。変化球中心の投球で、カーブ、縦スライダー、スライダー、ツーシームと変化球を多彩に投げ分ける。3番の浅間 大基(2年)には内角寄りの変化球、4番高浜 祐仁(2年)には変化球を見せながら高めの速球で勝負を行い、打ち取っていた。
ここまで伊藤は前橋育英打線を抑えていたが、1番工藤に高めに入った直球を捉えられ、ライトスタンドに消えるホームラン、続く2番田村にも高めに入る直球を打たれ、二者連続ホームランで4対1となる。さらに前橋育英は6回表に髙橋 知也(3年)のスクイズで1点を追加し、5対1。先発の伊藤をノックアウト。その後の追加点を加えていき、7対1とする。
高橋光は2回裏に1点を失ったあとは変化球中心の投球で横浜打線を抑えていた。決して本調子ではない。今までで言えば、高橋光以上の速球を投げる投手がたくさんいた。東海大相模の140キロ台の速球派トリオ、そして桐光学園の松井 裕樹、平塚学園の好投手・熊谷 拓也と好投手を打ち崩して甲子園に臨んだのだ。彼らと高橋光は何が違ったのか。変化球の引き出しが広いというのはもちろんだが、ランナーを出してからも動じずに常に相手打者を攻めることができていたことだと思う。そして横浜打線を相当研究していたと思う。神奈川県の投手で彼ほどのしつこさ、繊細さ、粘り強さを持った投手はいたかというといなかったと思う。ちょっとした隙をついて横浜打線は点を重ねていったが、高橋はランナーを出しながらも自分の投球スタイルを続けたことが横浜打線を封じることができた。改めて彼の投球センスの鋭さには驚くあまりである。
この試合の勝因は打線が伊藤から5点を奪ったことである。点差をつけられたことで、横浜が本来のゲームができていなかったというのはあるだろう。神奈川大会のような集中力のある打撃は見られず、焦りが見えてボール球に手を出すシーンが見られた。それは序盤で失点を重ねてしまったこと。伊藤の立ち上がりをついた前橋育英打線が見事だった。伊藤は立ち上がりは制球が乱れても、どうにか抑えて、どんどん調子を上げていき、気づいたら完封ペースの投球ができていた。前橋育英はその立ち上がりの弱さを逃さなかった。そして伊藤は変化球と比べて直球のほうが打ちやすい。直球は130キロ前半で、この試合はベルトゾーンに集まったのが痛かった。それを逃さないのが全国クラスのチームということなのであろう。
前橋育英は初出場ながらベスト8。それも今年センバツ出場の岩国商、九州地区の強豪・樟南、甲子園常連の横浜を破ってのべスト8入りである。次は10年ぶりの甲子園優勝を狙う常総学院との対戦だ。
(文=河嶋宗一)