利府vs仙台三
仙台三の先発・菅原
チーム力を得た利府が2年連続の東北大会出場決める
利府が仙台三を5対2で下し、2年連続6度目の東北大会出場を決めた。
利府は3回、二死二塁で5番・鈴木祐人(2年)が右前に先制タイムリーを放ったが、4回に同点に追いつかれた。
1対1のまま流れた試合は8回、利府の2番・上野幹太(2年)が中安で出塁すると、3番・菊池将平(3年)の犠打、4番・萱場祥一(3年)の死球で一死一、二塁としたところで、鈴木が左中間へ2点タイムリーを放って勝ち越しに成功。この回、一挙4点を奪った。その裏、一死二、三塁から船山大輝(3年)の犠飛で1点を返されたが、左腕・遠藤翼が2失点完投し、決勝進出を決めた。
利府と言えば、宮城の「公立の雄」だ。2009年のセンバツでは21世紀枠で初出場し、ベスト4と躍進したことを覚えている人も多いだろう。
昨年の春は3位決定戦で4点差を追い上げて、延長11回の末、5対4でサヨナラ勝ち。東北大会出場切符を得た。相手は同じ仙台三だった。昨年の夏は準決勝で東北に1点差で敗れ、ベスト4。世代が変わっても、常に上位に食い込んでくる。
しかし、昨年の秋は違った。なんと地区大会敗退で県大会出場を逃している。
投手は3人が1年の秋からマウンドを踏み、野手も力がないわけではなかった。
では、どうして?
小原仁史監督は「入って来たときからそうだったけど、チームとしてまとまらなかったんですよね。高校野球ができなかった」と言う。
「ピッチャーは、『抑えても点数を取ってくんねー』『エラーはする』。対して野手は『ピッチャーはすぐ腐る』と思うところはあっても言い合う事がなく、(選手間に)温度差があったので本音を言わせるようにしむけました」。
チーム力で勝利を手にした利府
本音を言い合い、ぶつかって、互いを理解するからこそ生まれるチームワーク。上っ面の付き合いや不満を溜め込んでいては本当のチームにはなれない。
利府にはグラウンドマネージャーの制度がある。今年は佐藤秀樹と佐藤翔樹の2人がその役割を担っている。そのうちの1人、佐藤翔樹によれば、「人任せのチームだった」とも。
「みんな、能力が低いわけじゃないのに、(その能力を)出そうとしていなかったんです。(昨秋は)練習試合も負け続きで、勝利への意欲もなくなりました。それでも、県大会は行けるだろうと思っていたのですが、(地区大会で)初戦、富谷に負けて、(敗者復活戦では)古川工に負けて何も残らない秋でした」
選手が自ら考えて行動する姿勢が見えないことから、グラウンドマネージャーは1ヶ月ほど練習を「一歩引いて」見ていたという。手出し、口出しはしなかった。
一冬越えた3月。練習試合が解禁になると、利府は勝ち続けた。「3年生は下の学年を引っぱり、自分たちが指示を出さなくても動けるようになりました」と佐藤翔。自ら考え、判断し、決断する。これはゲームの中でも生きるようになった。
地区大会で秋を終えたチームがこの春、夏のシード権を獲得し、東北大会出場を決めた。「何も残らなかった秋」から「チーム力を得た春」に変わった利府。決勝は仙台育英と対戦する。
一方、敗れた仙台三。選手たちは「今日はみんな、上げすぎたな」「もっと叩くべきだったね」といった会話をしながらベンチを後にした。
佐々木久善監督は今春、9年、指揮を執った泉松陵から転勤してきたばかり。「その前は利府だったので、勝ちたかったですけどね」と悔しがった。「スイングはできていたので」と状況に応じた守備を強化し、果敢な走塁を求め、わずかな練習を積み重ねてきた。決勝進出こそならなかったが、準々決勝では名門・東北を撃破。東北大会出場の最後の1枠をかけて、エースを温存させた仙台商と対戦する。
(文=高橋 昌江)