関西学院vs福崎
安定感抜群のエース・清瀬敏也(福崎)
自信と課題を得た“公立の星”
ここまでの県大会全3試合で完投し、わずか1失点と安定感抜群だった福崎のエース・清瀬敏也は、ゲームセットの瞬間もまったく表情を変えずに試合後の整列に向かった。
「ここまで投げられたのは、ピンチでもしっかり守ってくれた野手のみんなのお陰です。中盤以降、点を取られそうな場面はありましたが、後ろを信じて投げられたので何とか抑えられました」。
投げた12イニングのうち、8イニングはスコアリングポジションに走者を背負った。7回と8回には一死・一、三塁という大ピンチもあった。だが、7回は相手のスクイズを阻止する好フィールディングを見せ、8回は2番の勇俊宏から自慢のスライダーで三振を奪ってピンチを切り抜けた。9回には一死後、三塁打を浴びたが再び好フィールディングでスクイズを阻止し、相手に流れを渡さなかった。
「ピンチでは何も考えず、ただ抑えようと無心でいられました。余計なことを考えずに投げられたのが良かったです」とエースは表情を緩めた。
強豪私立を相手に、持ち前の制球力も冴えていた。内、外をしっかり突き、縦に大きく割れるカーブ、スライダーを投げ分ける。元々はキャッチャー出身で、投手を始めたのは中学2年から。当時はオーバースローだったが、自ら考えながら投げ方をあれこれ変え、サイドスローで投げるようになった。高校入学後も、一時的に上から投げていたが「高井(信之監督)先生と相談して」(清瀬)、現在のサイドよりやや上から投げる変則フォームに落ち着いた。「今の投げ方のほうが、制球が安定するようになりました」と本人が言えば、「元々はコントロールには定評はあったけれど、本当に大崩れしない。自分で考えて投げられる子」と高井監督もエースの潜在能力の高さを認めている。
7回、9回の二度のスクイズ阻止に加え、6回には無死・一塁からのピッチャー前に転がった犠打を、一塁走者がやや出遅れたところを突いて、二塁で刺殺する好プレーもあった。自らの判断が冴え渡った瞬間でもあったが、エースは自分の手柄だと認めようとしない。「野手がいいところで守っていてくれたお陰です」と当時を控えめに振り返った。最後は延長戦の末、味方のエラーで2点を失ったが、「いつも野手のみんなに助けてもらってきたので…。誰も責められないです」と、エースは最後まで仲間をかばった。最後はあと1歩のところで勝ち星を逃したが「ピンチでも冷静でいられるようになったのがこの秋の収穫です。これからもっと走り込んでスタミナをつけて、夏を目指したいです」。
この秋、すい星のように現れた“公立の星”。新たな自信と課題を手にしたエースは、さらにたくましくなった姿になって、春の舞台に戻ることを誓い、秋の舞台を後にした。
(文・写真=沢井史)