松山商vs東予
4回表二走・畝本良汰(2年)が一挙ホームへ
松山商業「緊迫感」を全面に県大会初戦を制す!
「もう、練習は終わり!試合まであと28時間、1から、グラウンド整備からやり直せ!」
試合2日前の9月27日夜、松山商業グラウンドに重澤和史監督の怒号が響いた。無理もない。
「残り1本で終わり」と決めたシートノックでエラーを繰り返す選手たち。「もう1本お願いします!」の声も「どこかで捕れば監督さんからOKが出るだろう」といった弛んだ声。そこには緊張感のなさが充満していたからだ。
あえて私感を述べれば個々の能力的には、新チームをはるかに凌駕する旧チームがついに甲子園をつかめなかったのも、その雰囲気をそこかしこに出していたから。監督の姿が消えると選手たちから途端に緊張感が消える姿は、次第に悪しき習慣となっていた。
もちろん指揮官はその傾向を十分感じていた。だからこそ、新チームではあえてこのタイミングで緊迫感を授けたのであろう。そしてその緊迫感は試合当日も全く変わることはなかったのである。
試合中はバントを失敗すれば「頭を動かしていない!」とベンチからの鋭い指摘が。試合後も選手バッグの並び方にわずかなズレがあれば「先輩たちを甲子園に連れて行ったバックに何をするんぞ!」と烈火のごとく補助選手たちを叱責。正に鬼であった。
松山商業先発・野田賢吾(2年)
そして松山商業は東予地区予選1回戦で前年秋季県大会覇者の愛媛小松を8回コールド・9対2で下す金星をあげ、意気揚々と県大会に乗り込んできた東予に何もさせなかった。
8月からサイドスローに挑戦し、最速を136キロまで伸ばした先発・野田賢吾(2年)は、5回3分の1を69球6奪三振被安打わずか2。
打線も相手のミスと外野守備の脆さを見逃さず積極走塁で10安打で10得点。
「スターはいないがしっかり野球をしている」と話しした東予・佐伯宏幸監督の松山商業評は、「突出した選手がいないので、束になって組織で戦う」チームコンセプトと表裏一体となったものであった。
ただし、松山商業・2回戦の相手は最速148キロ右腕・安樂智大(1年)擁する済美である。中予地区新人大会2回戦ではリリーフに立った彼を打ち込んだ実績があるとはいえ、この日は[stadium]西条ひうち球場[/stadium]で2年生を多く抱え、夏の愛媛大会準優勝を果たした川之江を3安打17奪三振完封と完璧に抑えた怪物を再び倒さなくては、センバツへの道はない。
となれば済美戦では東予戦以上に緊迫感のある野球を展開し、今度は監督に動かされるのではなく、自ら勝利のために緊迫感を高める必要がある。「本当は連戦でやりたいんですけどね」と去り際に笑顔を見せた重澤監督。その瞳の奥には確かな勝算をたたえた、あの夜同様の鋭い眼光があった。その光の真意を選手たちが感じ取ることができるかどうか。そこが「新生・松山商業」誕生への最後のパーツとなる。
(文=寺下友徳)