作新学院vs佐久長聖
ニュースタイルの収穫と課題
作新学院・佐久長聖。共通するのはファーストストライクから積極的に振り抜く打撃スタイルだ。
試合はお互いのスタイルを発揮した打撃戦であった。
佐久長聖は今年の4月から元PL学園の監督・藤原弘介氏が就任。
その前までは守備型のチームであったが、今年は一転して打撃型のチームに変貌。長野大会で6試合45点。平均7.5点の強力打線。打撃型スタイルが全国で発揮出来るか試される一戦。
一方、作新学院も昨年の夏の甲子園で強打を全国で轟かせて4強入りした。
しかも福井商・山本 文矢、唐津商・北方 悠誠、八幡商・吉中 佑志、智弁学園・小野 耀平、青山大紀とトータルバランスが高い好投手2人、プロ入りした剛腕、プロ注目右腕2人を打ち崩して4強入りしたのだから、その値打ちは高い。この夏も破壊力ある打撃は健在。栃木県NO.1右腕・星 知弥を打ち崩しての甲子園出場だ。
攻撃型チーム同士の対決は佐久長聖から先制攻撃を仕掛ける。二死二塁から4番寺尾 竜生がストレートを強引に引っ張って左前適時打で1点を先制。5番板垣 隼斗も右中間を破る長打で、2点目。そして6番小川 大樹がレフト線を抜く二塁打で3点目。鮮やかな先制劇であった。
さらに3回裏、一死三塁から6番小川 大樹が中前安打。これで4対0。ここまで7安打。作新学院の筒井茂を完全にアジャストしていた。
ここまで佐久長聖がリードしていたが、強打・作新学院が牙をむく。4番高山 良介のライト線二塁打からチャンスを作り、相手のエラー、中前安打で無死満塁のチャンスを作ると二ゴロで1点を返し、8番山梨 浩太が右中間を真っ二つに破る走者一掃の長打で、4対3と1点差に追い上げるのだ。
そして6回表、5番山下 勇斗が相手野手の失策で出塁すると、一死一塁となって代打・吉田 紘大が高めに入るストレートを叩いてライトスタンドへ飛び込む逆転2ラン。右、左に鋭い打球が飛ぶ打撃戦に相応しい逆転ホームランだった。
まだ1点差。佐久長聖にとっては取り返せる範囲。だが作新学院の二番手・水沼 和希(3年)。右サイドから投じるシュート、スライダーのコンビネーションに苦しみ、5点目が取れない。
7回表、作新学院は無死1,2塁から3番篠原優太が高めのストレートを叩いてライトスタンドへ飛び込む3ラン。篠原は昨夏、今年の選抜と怪我のため甲子園出場を逃したが、この夏ようやく全国の舞台を経験し、そして今までの鬱憤を晴らすかようなホームラン。4打数4安打の大当たりだ。小さなステップだが、強く踏み込んで、バックスイングを深く取りながらも、両腕を上手く畳んで振り抜く打撃技術は巧打者が多い作新学院の中でもトップクラス。これほどの男が怪我でグラウンドに立てなかったのは野球の神様は意地悪と思ってしまうが、ようやく彼の努力が報われたようだ。
佐久長聖は森井 駿太郎のホームランで1点を返すものの、反撃はここまで。打撃戦は作新学院に軍配が上がった。今年も振れる打者を揃える作新学院の指導スタイルは素晴らしい。この夏も自慢の強打で大暴れを見せてくれそうだ。
敗れた佐久長聖、初回の先制劇は痛烈であった。1番上島 幹成、3番森井駿太郎、4番寺尾竜生、5番板垣隼斗、6番小川 大樹の5人はスイングの鋭さ、打球の速さは際立っており、昨年からレギュラーの上島、森井、小川の3人は今まで眠っていた才能が目覚めたかのような成長であった。特に6番の小川はスクエアスタンスで構え、足を高々と上げて強烈に踏み込んで、トップを深く取って、振り抜く豪快なスイング。押し込みが強く、振り抜く打球はすべて力強い。体格といい、打撃スタイルといい、十九浦 拓哉(現セガサミー)を彷彿とさせる選手であった。
今までの守備型の野球の佐久長聖とはガラリと変えた攻撃型スタイル。その半面、守備面で細かなミスが見られ、4回の3失点、6回の逆転はいずれもエラーが絡んでの失点だった。佐久長聖が全国制覇を狙うのならば、攻守で標準の高いチームに育て上げることが最低条件になるだろう。それでも今年の佐久長聖がニュースタイルの野球は痛快。今後も見逃せないチームだ。
(文=河嶋宗一)