試合レポート

成立学園vs国士舘

2012.07.29

初優勝を呼んだ冷静な試合運び

サヨナラ打の瞬間。思わず身震いしてしまった。
昨日、西東京決勝日大三金子凌也主将の劇的な逆転打で二年連続出場を決めたが、東東京も見目 雅哉主将によるサヨナラ打。主将から決勝打が生まれるのは面白い偶然だが、西東京に劣らない素晴らしいゲームであった。

今年の東東京決勝は2005年以来の夏を目指す国士舘と初出場を目指す成立の対決。
2006年以降、東東京は帝京関東一の二大勢力が覇権を競ってきたが、その帝京を破った国士舘関東一を破った成立学園が決勝でぶつかるというのは何とも興味深いカードだ。

 試合の主導権を握ったのは成立学園だった。2回裏、7番鈴村 燿飛(3年)がセンター前ヒットで出塁。8番谷岡 竜平(2年)がストレートの四球。二死一、二塁となって9番小柳 大樹(3年)。小柳が直球を捕える。打球は前進守備のセンターの頭を超える長打。二者が生還し、2点を先制する。

4回表、国士舘丸山 俊太(3年)は死球。3番巻島 大宙(3年)の時の初球、パスボールで無死二塁。巻島は2ボール2ストライクからストレートを捕えて左中間を破る二塁打で1点を返す。同点に追い付きたいところだが、後続が凡退し、1点止まり。

5回裏、2番見目は0ボール1ストライクからセンター前ヒット。3番岩成亮祐(1年)は1ボール1ストライクから盗塁を敢行。成功させ、一死二塁。岩成はストレートを空振り三振。ここで投手交代。田宮 弘貴(3年)が入る。4番篠崎 悟(3年)が2ボールからの3球目を逃さず痛烈なセンター前ヒット。二塁走者生還し、3対1に。


 成立学園谷岡 竜平は塁上にランナーを背負いながらも、得点は許さない。6回表、無死1,2塁でこの日先制打を打っている巻島に回った。先制打の前の打席は痛烈なセンターライナーを放っており、国士舘の打者で最も谷岡にタイミングが合っている打者であった。成立学園守備陣が実に上手い守備を見せた。巻島は谷岡の直球を捕えて痛烈な三塁線への当たり。しかしサード・鈴村が正面に入っていた。しっかりと処理し、サードベースを踏んで、一死一、二塁。4番菊地 龍平(3年)はセカンドゴロ。これで二死一、三塁。クリーンナップに対し、内野ゴロ2つ。成立学園の思惑通りに進み、菊地は盗塁を敢行したが、小柳が素晴らしいスローイングにより盗塁失敗。
サードのポジショニングと盗塁を読んでストライクスローを見せた小柳のファインプレーにより国士舘の反撃を阻む。

 笠井 駿(2年)は1ボール1ストライクからショート内野安打。ショートの送球が逸れる間に無死二塁。1番山森 友樹(3年)は2-ボール2ストライクからスライダーを泳いで、ファーストファールフライ。丸山は2-2からスライダーで引っかけさせセカンドゴロ。ここまで良い当たりを見せている巻島。2ストライクからストレートを捕えたが良い当たりのサードライナー。
塁上に背負いながらも味方の好守により0点に凌ぐ。

 そして9回表に入った。緊迫した試合で最も揺れ動く9回だ。ここまで粘り強い投球をしていた谷岡だが、ボール先行。動揺は明らかだった。4番菊地に中前安打を打たれ、無死から出塁を許す。5番高橋 勇多(3年)がセンターフライで一死。6番川原 大輝(3年)が中前安打、7番清水 大智(3年)もライト前ヒットで一死満塁。国士舘の執念というべきか。打てるコースを一瞬で仕留め、同点・逆転のチャンスを作った。8番田宮に代わって代打・浅見 健人(3年)を投入する。

緊張が見える浅見。顔がこわばっていた。それを見たのか。丸山が浅見のもとへよって肩を抱いた。とにかく落ち着いて打席に立てよといっているように見えた。丸山のフォローがあったからだろうか。打席に入った浅見は落ち着いているように見えた。
そして浅見は甘く入った直球を見逃さずライト前ヒットを放ち、代打としてこれ以上ない仕事を果たすのだ。これで1点差。そして9番笠井もライト前ヒットを放ち、3対3の同点に。土壇場で追い付いたのだ。

このイニング。国士舘の同点劇がクローズアップされるが、成立学園の守備シフトも見逃せない。同点になるまでは内野手は定位置よりやや後ろに守っており、点を取ることよりも、アウトカウントを増やすことを優先していた。結果的には打たれて同点になってしまったが、裏攻めのチームとして妥当性のある戦術だ。前進守備を敷いたが、続く打者を打ち取って同点止まり。守る側としては同点で済んで良かったという心境であろう。逆転されれば2点以上は取らないといけないと考えなければならないが、1点を取るだけならば、戦術の幅が広がる。心理的には成立学園は余裕がある。


ここで国士舘は背番号「8」の本村圭吾を投入する。左投手時には4番に座る本村。この試合はリリーフからの登場本村は国士舘でも最も速い球を投げる投手であった。身体全体を目一杯使うダイナミックなフォームから常時130キロ後半(最速142キロ)のストレートと、キレのあるスライダーをコンビネーションにする投手であった。成立学園にとっては打ち崩すのは難しい投手。先頭の谷岡は空振り三振に倒れ、延長戦の可能性が出てきた。

先制打・盗塁刺で蔭ながら貢献している小柳。小柳は速球投手・本村に対しても実に冷静にボールを見極めており、四球で出塁した。二死となって、小柳は打者勝負に専念している本村を見逃さず、スタート。不意を突かれたか。捕手は送球が出来なかった。小柳のディレードスチールで、得点圏にランナーを置いたことにより、得点の確率は高まった。そして見目が振り抜いた打球はセカンドの横を抜けるセンター前ヒット。小柳は全速力で駆けまわり、小柳が三塁を蹴った時点で成立学園の選手たちはホームへ近づいていた。そして小柳はヘッドスライディングで駆け込んだ。

 初優勝を決めた成立学園。突出した選手はいないが、しっかりとゲームメイクが出来る好投手、場面に応じて最善な戦術を遂行出来る判断力、相手の隙を逃さない観察眼が長けた選手が揃ったチームだ。
ここまで戦いぶりを振りかえると6試合でコールド勝ちが一つもない。1点差勝利が4つ。サヨナラ勝ちが3つ。そしてターニングポイントである関東一二松学舎大附はいずれも逆転勝ちをしているのだ。冷静な試合運びが出来ているということであろう。
正捕手・小柳を中心に堅い守りを展開。失点をしても余計な追加点を与えず、ピンチでは点差に応じて、考えたポジショニングが出来ている。この試合は主将・見目が殊勲のヒーローとなったが、そのお膳たてをしたのは小柳のディレードスチールがあったことは見逃せない。

3年連続ベスト4入りしながらも、準決勝で大きな壁に阻まれた成立学園。今年はその壁を乗り越え、ついに東東京の頂点へ駆けあがったのである。

(文=河嶋宗一)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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