那賀vs耐久
接戦の勝ち方を知っていた
試合は耐久ペースだった。
この夏、何度も繰り返してきた粘りの野球である。
2回戦の貴志川戦も、3回戦の市立和歌山戦も先制を許しながら、最少失点で踏みとどまり、後半勝負に持ち込んできたのだ。準決勝進出を懸けたこの試合も、2失点とはいえ、耐久らしい試合運びだった。
「9回に良い形でチャンスが3、4番に回ってきて、いい感じでうちのパターンになっていたんですけどね」と北畑清誠監督は試合を振り返った。
耐久にとっては負けられないゲームだった。
というのも、この日の対戦相手・那賀は昨夏にも対戦し、敗れていたからだ。ナインには当然、忸怩たる想いがあった。
昨夏の1対9と比べると粘り強く守れていた。エースで4番の梅本健太郎は言う。
「今まではピンチを迎えると、たくさん点を取られていた。それが最少失点で抑えられるようになった。そこは成長したところだと思う」
一進一退の攻防から7回裏に長打で勝ち越し点を許した。だが、なおも、続くピンチを持ちこたえた。セーフティバントを仕掛けてきた相手の攻撃を、見事なフィールディングで封じ、後続を抑えたのである。
すると、チームは8回表に同点に追いついた。
「あそこで踏ん張れたのは大きかった」と梅本自身も振り返っているように、耐久ペースだと思わせたのは、まさに、あと一歩のところで踏ん張れていたからだ。
しかし、相手の那賀もミスをするとはいえ、最後のところで踏みとどまっていた。
9回表は、試合を決める大きな二つのプレーがあった。
耐久は無死から先頭の9番・川崎葵(2年)が四球で出塁、1番吉川克樹(3年)が犠打で送ると、那賀の守りが乱れる間に、二塁走者・川崎は二塁から一気に三塁を蹴ってホームを狙ったのだが、ライト・高島紘輔(3年)から好返球。得点を防いだ。
さらに、その後、二死一、三塁の場面から、耐久の4番梅本がライト線へ痛烈な当たりを放つ。
しかし、これも、ライト・高島が絶妙なポジショニングとダイビングでファインプレー。得点を与えなかったのだ。
そして、9回裏、那賀は一死から高島がセンター前ヒットで出塁すると、犠打で二進、8番山本祥が四球で歩いた後、9番河崎大起の打球はセンターの前へポトリと落ちるタイムリーヒット。これがサヨナラ打となったのである。
改めて、両者に力量差はなかったと思う。
その中で、違いがあったとすると、那賀の外野手のポジショニングが的確だったということだろう。
9回表の長島のプレーがまさにそうだが、このほかにも、そうしたポジショニングでヒットを防いだ場面がいくつもあったのだ。
那賀・高津亮監督は言った。
「市立和歌山戦を見て、打者によってポジショニングを変えた方が良いと思いました。引っ張ってくる打者もいますし、コツコツ合わせてくる打者もいますからね。うまくいったと思います」
9回表の梅本の打球は「抜けた」と思うような打球だった。反対に、9回裏の河崎の打球は「抑えた」と思うような打球だった。
「やはり、那賀は粘り強かった」と梅本は相手を称えた。
耐久は接戦に強いが、那賀もまた、接戦の勝ち方を知っていた。
(文=氏原英明)