神村学園vs鹿児島工
ぶれない気持ちの強さ
3回までの神村学園は、地に足のつかないプレーの連続だった。
左腕・平藪樹一郎(3年)の乱調、連続エラーで同点…「NHK旗で勝った相手だけど、チャレンジャー精神のつもりで行く」(サード・中園史剛・3年)はずだったが、明らかに「挑まれるチーム」の弱さが続く。
こういう試合を立て直すとすれば、ぶれない強い精神力を持った誰かが、プレーでその精神力を示すことだろうと思いながら観戦していた。
それを分かりやすく示してくれたのは、エースで4番の柿澤貴裕(3年)だった。
3回、同点に追いつかれた直後にスクランブル登板。「投球練習も全然できていなかった」が「もう1点もやれない。自分が何とかしてみせる」という強い気持ちだけで力投を続けた。
直球の最速は144キロだったが「全然いいボールじゃなかった」という。それでもリリーフした3回以降を散発4安打、三塁を踏ませなかったのは「気持ち」以外の何物でもなかった。
7回には貴重なダメ押し点となる2ランをライトスタンドに叩き込んでいる。
「進塁打を打つつもりでいたら、カウントが3ボール1ストライクだったので絶対に直球が来ると思ったので、楽な気持ちで思い切り振った」と話した柿澤。
思えば新チーム結成した最初の8月、チームのルールを破ったペナルティーで、約1カ月間、草むしり、トイレ掃除、ランニングしか、させてもらえない時期があった。
「あの時の経験が絶対に今どこかで生きていると思います」
気持ちの強く持ち、周りを信頼し、信頼される投手になろうとあの時思った。1人で背負い込むのではなく、必ず野手を見て互いに声を掛け合うことを最後まで忘れなかった。本塁打も、後ろにつなぐ意識が打たせてくれたものだった。
「あと2試合、強い気持ちで自分の仕事をするだけです」と力強く語った。
3番古賀伊織(3年)もそんな「精神的な強さ」をもっていた。
今大会は1番新納真哉(3年)、2番田中貢大(3年)が不調で「自分が塁に出ないといけないつもりで、二死二塁の場面を作るバッティングを心掛けている」という。
この日も3安打を放ち、7回にはまさしく1、2番が倒れたあとのセンター前ヒットで出塁し、柿澤の2ランを呼び込んでいる。
4打数4安打と気を吐いた中園は、2点目と4点目の口火になった。
「基本に忠実なプレー」を常に心掛けているという。バッティングがセンターから逆方向に低い打球を打つこと、守備は前に落とすこと、絶えず野手同士で声を掛け合うこと…
グラウンドに立てばシード校だとか、過去の実績は一切関係ない。勝つために淡々と自分に与えられた仕事をやり切り、その気持ちを全員で共有するしかない。
今大会、ここまで苦しい試合が続いているが、山本常夫監督は「選手1人1人の精神的な強さが身についている」と感じている。
(文=政純一郎)