笠田vs坂出工
皮肉な記憶の継承
1年時からエースナンバーを背負ってきた坂出工の大型右腕・上野翼(3年)の高校最後の夏が終わった。
デビュー間もなく130キロ台後半のストレートを記録し、香川の高校野球ファンの間で一気に期待を集めた上野。残念ながら以降、速球派のイメージは影を潜めたが、1年の秋から冬にかけて痛めたという腰に一因があったのかも知れない。
それでもワインドアップから繰り出される豪快なピッチングは、細かい制球にとらわれない荒々しい魅力を披露。今春の大会では2試合の完封劇を演じるなど、チームを春13年ぶりの4強へと進める原動力となった。
その上野が今大会。初戦(2回戦)の、三本松戦では6回途中で、3回戦の敗れたこの試合では7回途中でマウンドを譲った。
「本来なら僕が最後まで投げなければならないケース。事前に継投は予定していなかった。勝ちにこだわりすぎて身体が硬くなり、ストライクが入らなかった。自分が情けない。最後までマウンドにいたかった」と試合後の上野。
坂出工の箱崎功監督に今大会の上野の不調を訊ねると「そんなことはない。よくやってくれた。ランナーを背負いながらも勝つための野球に徹してくれた」と、上野をかばった。
完封で勝利した香川笠田の1年生左腕・真鍋裕貴は、最速131キロの伸びやかなストレートと制球力抜群のスライダーを武器に坂出工打線を翻弄。
被安打7、奪三振9の内容で、初戦の寒川戦の勝利が決してフロックではないことを証明した。真鍋は今後の注目ピッチャーとして、ファンに瑞々しい記憶を刻んだ。
記者から再三にわたり、真鍋投手のピッチングについて質問された上野。皮肉なシナリオにも上野に涙はなかった。
(文=和田雅幸)