徳之島vs加治木
「良い試合」で終わらせない
延長戦までもつれた。
今までなら負けても「良い試合だった」と言っていたかもしれない。だが徳之島は「良い試合」で終わらせず勝った。
「勝ち方が分かってきた。今までの経験が生きました」。田村正和監督は言葉に力を込めた。
中盤までの劣勢の展開を跳ね返したのは、「つなぐ打撃」と「冷静な守り」だった。
「5回まではつなぐ打撃ができなかった。監督さんに言われた『後ろにつなぐ』打撃が後半はできました」と話した当裕也主将(3年)。
6回の同点劇、延長10回のサヨナラの場面はいずれも8番永大志(2年)から始まって、低い打球やセーフティーバントでつないでチャンスを広げて、奪ったものだ。
決勝点のセーフティースクイズを決めた大久達也(3年)は「ファールでもいいからと言われたので、楽な気持ちでできた」と言う。劇的な展開の中でも、落ち着いて与えられた仕事をやり切った。
守備では9回に相手のスクイズを外したシーンが見事だった。
8回裏は走塁ミスで好機を逸し、逆に一死三塁と勝ち越しのピンチを招く。「前の試合でも加治木は初球スクイズをやっていたので、稲村が思い切って外してくれた」と前元。
狭殺プレーも冷静に対処してピンチを脱した。10回一死満塁の場面も併殺で切り抜けた。終わってみれば初戦から3試合連続の無失策試合だった。
鹿児島市での滞在期間は2週間を過ぎようとしている。
これまでなら滞在期間の長さが勝利への欲を削ぐこともあったが、今の徳之島にそれはない。この日は「昨年同じ3回戦で負けた加治木に絶対勝ちたい」(当主将)気持ちが最後まで途切れなかった。
劇的なサヨナラ勝ちで、はしゃぐナインを古市幸司部長が一括して試合終了のあいさつを急がせた。
「相手に失礼。それにまだ大会は終わっていませんから」と古市部長。
共に戦った相手への気遣い。そして本気で頂点を狙う覚悟が読み取れた。
(文=政純一郎)