日大豊山vs駿台学園
ビッグイニングが起こる理屈
均衡した試合展開から起こるビッグイニング。原因を探るには取られた側のチームから探る。何が原因で、大量点が取られたか。それを探るとビックイニングは起こるものだなと納得いく。偶然ではなく、必然。この試合は取られた側にいろいろな要素が積み重ねって、ビッグイニングが起きた。
昨秋ベスト4の駿台学園と昨秋ベスト8の日大豊山の対決。春は共にシード圏内まで勝ち進む事が出来ず、この夏はノーシードからのスタートとなっていた。盛り上がる一戦に両チーム、スタンドには多くの観客が詰めかけ、ネット裏席も込みあっていた。試合序盤は特に試合が動くこともない接戦であった。
駿台学園の北川 平は昨秋ベスト4まで導いた好投手。速球は135キロ前後とそれほど速くはないが、切れのある変化球とコンビネーションに、打者の傾向を見ながら、ピッチングが組み立てるのが北川の真骨頂だ。一言で言ってしまえば小賢しい。この日も、130キロ前後の速球、縦のスライダー、カーブを織り交ぜるコンビネーションで3回まで危なげないピッチング。
一方、日大豊山の先発・井原拓海(2年)も、左腕から120キロ後半のストレート、スライダー、曲がりの大きいカーブのコンビネーションで1回の2安打以外は危なげない投球で、無失点に抑え、0対0。試合終盤まで手に汗握る緊迫した試合展開になっていくと思っていた。
しかし4回に異変が起こる。4番山村浩之(2年)がセンターへのヒット。。5番森英伸(3年)は四球で続き、6番柏木拓也(3年)が犠打で送った後、7番荒が四球で出塁。一死満塁のチャンス。ここで北川がマウンドを降りた。場内は騒然となった。
試合を左右する場面で、エースを降ろすということは、何か異変があったということだろう。試合後に明らかになったが、北川は右肘を痛めていた。エースとして我慢しながら投げていたが、4回にはその我慢の限界にきていたということであろう。二番手に左腕の村井 恒介(2年)がマウンドに上がる。荒 悠介(3年)はスクイズを敢行。バッテリーはスクイズを察知し、ウエスト。挟殺プレーとなり、二死になったと思われた。しかし三塁走者とボールを持っていない捕手が接触してしまった。審判はそのワンプレーは見逃さなかった。球審は走塁妨害を宣告。自動的に三塁走者の生還が認められ、日大豊山が1点を先制する。彼らはアウトだと思っていたに違いない。しかし審判が下した判定が絶対であり、走塁妨害で点を取られた事は受け取らなければならない。むしろ我々が気付きにくいところをルールに則ってジャッジした球審は素晴らしい。
だが心身ともにブレが大きい高校生にこの判定による動揺は大きかった。ましてやチームを支えてきたエースの途中降板。後ろに頼りになる先輩がいない。なかなか切り替えられるものではない。
9番大野がタイムリーの後、連続押し出し、さらに立て続けに連打を浴びて、一挙8点を取られ、8対0と日大豊山にセーフティリードを許した形となってしまった。
そして6回には4番山村のタイムリー、7回表にも、3番柴山の右中間を破る三塁打などで2点を追加し、11対0。最後は井原が危なげなく投球で、0に抑え、日大豊山が7回コールドで駿台学園を下し、3回戦へ進出した。
予想外のスコアに多くの人が驚きを隠せないスコア。しかし高校野球はいろいろな要素が絡んで予想外のゲーム展開になるものと改めて感じさせるゲームであった。駿台学園はエース北川の降板・走塁妨害による動揺から大量失点。まだ経験不足であった2年生左腕・村井、1年生捕手・芹川真志にとっては自分を見失いやすい状況。ビックイニングを起こり得る条件が揃っていた。敵は自分たちの心の隙にあったのだ。
駿台学園だけではなく、どの学校にしても起こり得ること。一度状況を再確認し、傷口を最小限にとどめるには何をするべきか。何をするかを明確にしながら、作戦を組み立てて試合を進めていく。それがはっきりすれば、27のアウトを取ることにしっかりと集中しやすくなる。
「心身のぶれをどう少なくするのか」
夏、勝ち進むにはとても重要な事と改めて感じた試合となった。
(文=河嶋宗一)