試合レポート

大阪桐蔭vs明石

2012.06.03

大阪桐蔭vs明石 | 高校野球ドットコム

近田拓矢(大阪桐蔭)

4番‼

 大阪桐蔭打線は苦しんでいた。

明石の先発・松原史弥(3年)は、アンダーハンドの変則タイプ。府予選決勝で対戦した大阪商大堺の時と同じようなタイプの投手。
その松原に対し、1回に先頭の大西友也(3年)がヒットを放つも、2番白水健太(3年)の時に盗塁を仕掛けて失敗。白水は三振に倒れたため、いわゆる『三振ゲッツー』の形になった。
3番の森友哉(2年)も倒れ、結局3人で攻撃を終えた大阪桐蔭打線。以降は、2回、3回と三者凡退。これが松原のリズムであり、完全にハマりかけていた。

地元の大声援に後押しされる明石に流れを奪われてしまうのか?

そんな状況になりつつあった雰囲気を打ち消したのは、今大会で初めて公式戦のベンチに入り、4番を任される近田拓矢(きんでん・たくや=2年)だった。

二巡目となった4回。立ち上がりと同じように大西がヒットを放つが、白水と森は続けて併殺崩れに終わる。ここでも松原のリズムにハマっていた。
2死1塁で打席に入った近田。2ボール1ストライクとバッティングカウントになった。4球目、独特の軌道を持つ松原の球を打ち返した。打球は左中間を真っ二つに破る。一塁走者の森は、それを見て笑顔が溢れていた。
『すごい当たりを打ってくれた』
そんな心境だったのだろうか。一気にスピードアップをすると、本塁まで駆け抜けた。
苦しんだチームにとって待望の先取点は、公式戦でアンダーハンドの投手と初対戦となった4番のバットから繰り出された。
「先週初めて公式戦を経験して、慣れてきたと思います」と西谷浩一監督は讃えた。

 だが4回裏、明石は犠牲フライで同点に追いついた。西谷監督は5回の攻撃で、先発の髙西涼太(2年)に打席が回ってきたこともあり、投手交代を決断。5回裏からは、この春の大会では“エース”である澤田圭佑(3年)をマウンドに送った。1点勝負、そんな雰囲気を感じ取れる交代。澤田は5回裏を三者凡退で抑えた。
6回表、先頭の大西が四球で出て、白水の送りバントと森の内野ゴロの間に2死ながら三塁まで進んだ。
打席はこの日3度目と対戦となる近田。今度は1ボールからの2球目を逃さず、レフト前へ運んだ。確実に勝利への流れを引き寄せる一打にベンチは盛り上がった。
近田は8回の第3打席でもヒット。結局4打数3安打2打点と活躍し、報道陣からの取材指名選手に呼ばれることになった。


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好投を見せた松原史弥(明石)

繰り返しになるが、近田はこの大会が初めてのベンチ入りである。
「守備で弱い部分があったのと、打撃でも当たれば飛ぶがまだ確実性がなかった。でも春以降は良くなって、(田中公隆)コーチからぜひ使って下さいと報告があった。次のチーム(世代)の4番候補として」と説明した西谷監督。本来4番の田端良基(3年)が今大会はまだベンチに入っていないだけに、大きなチャンスを貰っての出場だった。
首脳陣の大きな期待に応える4番の活躍。しかし夏を見据えると状況は変わる。

「田端も実戦ができる状態まで戻ってきた。もし今日の試合で負けていたら、明日の練習試合から復帰させるつもりでした。田端にとっても、近田は同じ和歌山出身ですし、良い刺激になっているでしょうね」と話した指揮官。
この近田が夏はスタメンではないかもしれない。それを想像すれば、対戦相手にとっては脅威へと繋がるだろう。それだけインパクトのある4番の打棒だった。

 一方、敗れはしたが明石の松原はこの日も持ち味を存分に生かしたピッチング。最終的に10安打を浴びたが、現在日本一のチームの打線を4点に抑えた。
本人が唯一悔やんだのが、6回の大西への四球。ポンポンと打ちとって、相手の打線をハマらせるタイプだけに、コントロール乱れる=四球が命取りになることを実感したようだ。

元々サイドハンド(参照:2011年夏)だったのを、今冬にアンダーハンドに変えたという松原。春先までは、投球フォームを固めるのに苦労をしたが、公式戦を何試合も経験でき、今では完全に自分のものとしつつある。
「夏は甲子園に出場して、支えてくれた人たちに恩返しをしたい」と話したサブマリン。
球場外で、「ナイスピッチング」と多くの人に握手を求められていた背番号1の眼差しは、夏の兵庫制覇への決意に満ち溢れていた。

スターティングメンバー
明石
4川原健吾、9櫻井拳人、7栗林隼平、2福山大貴、5舩山和馬、8池田圭吾、3久保周平、1松原史弥、6浦崎剛士
大阪桐蔭
4大西友也、8白水健太、2森友哉、3近田拓矢、7安井洸貴、9水本弦、5笠松悠哉、6妻鹿聖、1髙西涼太

(文・写真=松倉雄太)
写真=試合シーン50~89中谷明

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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