高崎vs東海大甲府
島田智史投手(高崎)
貫いた己の野球
立ち上がりに1点を失った高崎だが、6回に集中打で逆転。2回以降立ち直ったエース島田智史(2年)が、東海大甲府打線を5安打2失点に抑えて完投。関東大会ベスト4進出を決めた。
「幸せものです」と高崎の境原尚樹監督は31年ぶりのベスト4の実感を噛みしめた。
1回戦(参照)に続きこの日も立ち上がりに失点したエースの島田。だが、驚いたのがその守りだった。
東海大甲府の1番松野洸太郎(2年)にいきなり二塁打を浴びた島田。2番新海亮人(2年)に死球を与え、3番斎藤景介(2年)に送りバントを決められて1死2、3塁となった。
打席は4番渡邉諒(1年)。ここで高崎内野陣は、本塁で刺す前進守備を取らずに、普段と同じ守備位置についた。4番打者が相手とはいえ、立ち上がりの失点は絶対に防ぎたいところ。
だが、高崎はまるで『これが自分達の野球』と言わんばかりに、自信たっぷりの様子で構えた。結局渡邉は、セカンドゴロを放ち、その間に1点を先制した形の東海大甲府。この時点ですでに高崎サイドの術中にはまっていたのかもしれない。
さらに先頭松野にガツンと打たれたことで、「甘く入ったら打たれる」と気づけた島田。2回以降は130キロに満たない直球を巧みに操って、東海大甲府打線を早いカウントから打ち取っていった。
高崎 塚越陸(6回、勝ち越しとなる三塁打)
一方で打線は東海大甲府のエース神原友(2年)を相手に4回まで1安打。5回になって1死から6番中里彰吾(1年)の二塁打と7番内堀雄斗(2年)のヒットで1、3塁と初めてチャンスを作る。
打席に入った8番島田の特徴を見て、境原監督はスクイズの指示を出した。だが島田の転がした打球は、ピッチャーの正面に転がりスクイズは失敗に終わる。さらに9番清水貞光(2年)のレフト前ヒットで二塁から内堀が本塁を目指すが、好返球でタッチアウトになった。
少ないであろう好機を逸した高崎。普通ならば、完全に流れを手放す展開だが、落ち込んだような素振りはまったく見せない。
6回表、1番の中澤信哉(1年)がレフトオーバーの三塁打を放つ。前半あれだけ振れていなかった打線が、神原の球に合い始めていた。
続く浅沼駿介(2年)は2番打者だが、境原監督の選択は強攻。結果的にファーストゴロに倒れるも、強烈だ打球で相手にプレッシャーをかけた。
そして3番金子裕紀(2年)がライト前に同点タイムリー。さらに4番塚越陸(1年)、5番倉金宏輔(2年)の連続タイムリーで勝ち越しどころか2点の差を奪った。
8回、三振振り逃げの間に追加点を挙げる幸運も味方した高崎。島田が1イニング平均10球で東海大甲府打線を打ち取っていき、9回をわずか98球で投げ切った。
ベスト4進出にも淡々と整列に並び、試合後の道具運び出しも驚くほど早かった高崎の選手たち。境原監督は、「開催地の山梨だけに、ほうとう息子(孝行息子)です」と選手を見やりながら、思わずジョークが飛び出した。
1回に1点を守りにいくことにこだわらず、9イニングトータルでゲームをコントロールした高崎。己の野球を貫き、地元1位校まで食った。関東ベスト4は勢いだけでなく、本当の力がついている証拠と言える。
(文=松倉雄太)