九州学院vs済々黌
大塚尚仁(九州学院)
大塚の興味深い進化
試合前から「ピーン」とした張り詰めた空気がスタジアムを覆い尽くしていた。
両チームのベンチはもとよりグラウンド内から放射される独特の空気は、観客席、そして記者席まで押し寄せ、試合開始前だというのに固唾を呑んでグラウンドを見守る人々が、今か今かとプレイボールのサイレンを待ちわびているかのようだった。この日は、日曜日に加え、ともに前評判の高い九州学院vs済々黌という好カードだけあって、[stadium]県営八代野球場[/stadium]には朝から多くの観客が詰め掛けていた。
九州学院のエース・大塚尚仁は、「最初から飛ばそうと思っていました」というように初回から気迫が漲っていた。間合いが短く、テンポのいいピッチングから繰り出されるストレートは球速以上に感じられ、キレ鋭いスライダーも低目へコントロールされる。技巧派でありながらピッチング自体に迫力さえ感じさせていた。それは旧チームで見せていた大塚のピッチングとは一味も二味も違うようなワンランク上の姿であり、いい意味で本当にあの大塚なのかと筆者も一瞬、目を疑ったほどだった。
初回の三者連続三振から始まり、終わってみれば、被安打3、奪三振12のシャットアウトで、今大会の優勝候補の一角である済々黌を全く寄せ付けなかった。
そんなピッチングの変化について本人に問うと「いつからかとか、わからないです。練習試合とかでいい球を投げられたらその感覚を続けて投げられるように心掛けています」。
実戦でピッチングを模索しているうちに自然と前で放せるリリースポイントを掴むなど、自らのピッチングスタイルを築き上げてきたのだ。
試合は、九州学院が初回に4番・太田晃平の右中間を破る適時三塁打と3回の暴投でそれぞれ1点ずつを上げ、済々黌の好左腕・大竹耕太郎に5安打と苦しめられながらも、エース大塚が2点を守りきった。
試合後、九州学院の坂井宏安監督が「試合前から済々黌を意識し過ぎましたね。選手はみんな気持ちが入り過ぎていました」というように互いに旧チームの経験者が残り、戦前から接戦が予想された手に汗握る試合。打てない時があってもバッテリーを中心にローゲームを制したことは、九州学院にとってこれから先を戦っていく上でも非常に大きなポイントとなったに違いない。
「今までは打たれたらカッとなってしまうところがあったんですけど、それを意識しないようにしています。最後のピンチ(9回1死三塁)になった時も構えたミットのところにすべて投げられました」
完封勝利をしても怯むことなく勝負どころでの飽くなき執念をにじませた大塚。
1年秋からの背番号1、センバツ、夏の県大会敗退・・・そして今秋。
時が流れるとともにマウンドに立ち続けた大塚が、興味深い進化を遂げようとしている。
(文=編集部:アストロ)