真和vs湧心館
今村彗史(真和)
秋祭り
ドーカイ、ドーカイ、ドーカイ、ドーカイ-。
街中を練り歩く飾り馬を追いかけ、威勢のよい勢子(せこ)たちの掛け声とラッパが奏でる独特の雰囲気。熊本の街は、早朝から熱気と大勢の見物客で溢れかえる。熊本の一大イベントである藤崎八幡宮秋の例大祭は、秋の訪れを告げるといわれるだけあって、祭りの翌日となった今朝の熊本は気のせいか、秋の気配さえ感じさせてくれた。
そんなさわやかな秋の訪れとともに、今秋の1回戦で公式戦初白星を上げた新星が、ダイヤモンドを駆け巡った。
正式には、昨年4月に7名という人数から部を発足させ、今夏に公式戦初出場を果たした部員11名の真和である。そんな真和が1回戦に続き、この日も勝利を飾り、今秋2勝目を上げた。
試合後、真和の桑田哲也監督は開口一番こういった。
「ほんと、鎮西さまさまです」。
その言葉に込められた意味を紐解くとこんなことがみえてくる。
真和の学校がある敷地内には、強豪校として知られる鎮西があり、ともに学校法人鎮西学園という同じ系列校。進学校である真和野球部は、基本的に週2日の休みがあり、一日の練習は約2時間など、勉強に費やす時間の割合が多いため、練習時間こそ制限されるが、野球部の練習場所として、鎮西グラウンドを使用し、鎮西と交互に練習を行っている。
普段の練習では、最も身近な強豪校の練習を体感でき、選手育成に定評のある鎮西の江上恭寛監督からアドバイスを得られるなど桑田監督の「鎮西に感謝したい」という言葉が十分に伝わってくる。さらに鎮西の試合時には、真和が毎試合のようにスタンドに駆けつけ、友情応援をしながら、強豪校のイメージを積極的に体感しているのだ。
中山倖季(真和)
熊本市立井芹中学時代に野球部(軟式)のエースとして活躍していた1年生エース中山倖季は、高校入学前の春休みに真和野球部の発足を知り、野球部の門を叩いたという。
「自分は真和に野球部が出来ていなかったら、野球をしていなかったかも知れません。野球部ができることを聞いて文武両道を目指したいと思い始めました。(同じグラウンドで練習している)鎮西は、(熊本)市内大会を優勝しましたし、練習でも強い打球とかレベルの高い野球を肌で感じることができるので、本当に勉強になります」(中山)
この日の中山は「体に張りがあったので万全ではなかった」といいながらも湧心館打線を被安打6に抑え、攻撃陣も7回で7安打、10盗塁と足を絡めるなど計9得点とエースを援護した。これで今大会の真和は、記念すべき公式戦初白星どころか2勝目を上げたことになった。
勉強で頑張ろうと入学したはずの生徒たちが肌で感じる“高校野球”。しかも、そこで早くも公式戦2勝を上げたことで達観しているようにも思えるが、醒めているわけではない。
彼らにとって、野球ができるという喜びは、常に進歩的、発展的で、生き生きと湧き上がるエネルギーを感じる。その理由として、最も身近にある強豪校の存在が、大きかったに違いない。
鎮西と同じ真っ赤なカラーのユニフォームに身をまとい、熊本の聖地・藤崎台で躍動する真和野球部。この日の試合でも興奮するでもなく、緊張するでもなく、ただ淡々と野球を楽しんでいた。それは「純粋に野球が好きだ」という彼らの胸に内在する本心を垣間見えたことでもあった。
真和の秋祭り、まだまだ終えるつもりはない。
(文=編集部:アストロ)