小豆島vs飯山
強力打線の中心、塩田選手(小豆島)
大舞台経験した青年監督率いる「24の瞳」、秋も順調発進!
今夏香川大会でベスト8に進んだ小豆島。
準々決勝こそ坂出商の前に6対7でサヨナラ負けを喫したものの、わずか選手16名(他にマネジャー3名)で勝ち取った4年ぶりの快挙に、3万人あまりの島民は大いに沸き立った。
そして3年生選手4名が引退し、選手12名と正に「24の瞳」で挑んだ秋の県大会初戦でも、彼らの掲げる「スーパーアグレッシブ」な野球は健在であった。
ノーサインがほとんどのヒットエンドラン、変幻自在のアンダースロー・長町泰地(2年)など、アグレッシブな要素には事欠かなかった彼らだが、中でも目に付いたのは全打者に徹底されていた「フルスイング」である。
例えばこの試合、飯山先発右腕・豊田裕作(2年)が決して悪かった訳ではない。彼自身は直近の練習試合における大勝(14対2)にも全くおごることなく、なんとか連打を浴びまいと内外角・高低を丁寧に使い分けていたし、松浦弘基(2年)もキャプテンの責任感に満ちたリードを終始展開していた。
ただし、小豆島の打力はそんな飯山バッテリーの努力をも凌駕するものであった。
1回表の4番・塩田薫(2年)の先制2点適時三塁打に始まり、7回で先発全員安打の15安打11得点。
1番から9番まで全く気を抜けないスイングの脅威は、「打席ではヒットの可能性があるスイングをしておいで。期待できる集団になる方が勝つ可能性が高まるよ」と2009年秋の同校監督就任当初から指導を続けてきた杉吉勇輝監督の理想系に近づくものであったに違いない。
杉吉勇輝監督(小豆島)
さらにその杉吉勇輝監督。現役時代の実績は正に栄光で満ちている。高校時代は「1番・セカンド」として丸亀の2000年・春夏甲子園連続出場。現役合格で進んだ慶應義塾大でも1年春から全てのシーズンで試合出場。特に4年時(2004年)には春季リーグ戦で早稲田大・大谷智久(現:千葉ロッテ)から母校の早慶戦連敗を「10」で止める満塁アーチを放つと、秋季リーグ戦では二塁手として6季ぶり31回目のリーグ制覇に貢献している。
そして六大学通算187打数37安打の記録以上に大学野球ファンの記憶に残る活躍の後、一度は大手都市銀行に就職するも、指導者を志し08年春から香川県へと戻ってきた杉吉監督。この経緯だけ見ても、間違いなく彼は小豆島ばかりでなく香川県高校野球界にとって「切り札的存在」と断言できる。
しかし、杉吉監督自身はそんなエリート意識はおくびにも出さず、最後にこんなエピソードを話してくれた。
「僕の現役時代も搆口秀敏監督(現:坂出高校監督)にやってもらっていたことなんですけど、勝った後はみんなで『うどん』を食べて小豆島に帰ることになっているんです。
小豆島では麺類というと『そうめん』なんで。こっちでうどんを食べるのをみんなで楽しみにしているんですよ」。
その横で「監督、うどん食べに行きましょう」とすかさず反応した土居優馬キャプテン(2年)の澄んだ瞳は実に印象的なものだった。
このように実績十分の監督に導かれ、人間同士の付き合いを通じて楽しく、純粋に、かつ確実に野球を学んでいく様子がありありと見える小豆島。夏に続く順調発進の先には、何かどてかい事をやってくれそうな雰囲気が見え隠れしている。
(文=寺下友徳)