試合レポート

如水館vs広島新庄

2011.07.28

如水館2年ぶり7回目の甲子園!経験者コンビが大舞台を引き寄せる

派手に喜ぶことはなかった。9回最後の打者を三振に仕留めた瞬間、ガッツポーズを決める如水館の捕手・木村昴平と対照的に、浜田大貴が笑うことはなかった。ベンチに戻ると感極まって涙があふれていた。グラブの内側には「リベンジの舞台へ」と刺繍が刻まれている。ようやくつかんだ切符だった。「また甲子園へいけますね」。2年ぶりの晴れ舞台への権利をもぎ取って少しだけ笑顔を見せた。

1点先制後、4回からマウンドに上がる。立ち上がりは悪い癖をのぞかせた。連打を浴びて4、5回に1点ずつ失って一時は逆転を許す。それでもあきらめない。6回以降に徐々に立ち直った。走者を出しても慌てることなく丁寧な投球で広島新庄打線からアウトを奪っていった。

そんな好投に応えたのは打線だった。中でも金尾元樹は浜田の一言に発奮した。1点リードした8回に再びチャンスが巡ってきた。「浜田が“点が欲しい”といってきたんです」。そんな一言に燃えていた。初球のカーブをレフト前に運ぶ2点適時打だ。7回に同点打を放って気分よく打席へ向かっての一打だった。「悔いを残さないように打っていきました。得点圏ではチームのために打っていこうと思っていました」。照れくさそうに振り返る。

2人は1年夏に甲子園経験がある。夢の舞台には悔いを残して帰ってきた。2年前、夏の甲子園。如水館は1回戦で高知に初戦敗退した。一方、甲子園で3試合を経験した。雨天ノーゲームが2日間続いたことで、“3試合”を経験した。3-9で高知に敗れた試合で、「7番・一塁」でスタメン出場した金尾は1打席だけ(無安打)で交代。4番手で登板した浜田は打者2人に2安打、1つもアウトを奪えずに降板した。最高学年になって、2人は甲子園だけを追い求めていた。浜田は「2人ともいい思い出はなかった。もう一度行って、いい思い出を作ろうといってきました」と打ち明ける。主力となった2人の絆と執念でつかんだ甲子園だった。

あの甲子園で学んだのは2人だけではない。樋口圭主将は2年前、アルプススタンドから声援を送った。同級生2人、先輩たちの悔しさを肌で感じ取っていた。「あのときに甲子園は簡単に勝てる場所ではないと教わった。今度は甲子園でしっかり勝てる準備をしていきたい」。今夏、野手だけでなく投手としてもチームに貢献した主将はチーム全体を早くも引き締めにかかる。

迫田兄弟が夏の広島大会決勝で対戦するのは2度目だった(他に準決勝で1試合。通算は3度)。7年前の2004年決勝では、広島商監督だった弟・守昭が13-9で勝った。今回は如水館監督の兄・穆成が勝った。「広商監督だったあのときとは違う。今度は思い切った野球ができていた」。走塁を積極的に仕掛けてくる采配を評価した。

2年前につかめなかったものを追い求めて、再び甲子園の舞台へ向かう。一発攻勢など派手さはない。打線をつなげることによって得点を重ねてきた如水館が、そつのない攻めと自慢のチームワークで今度こそ勝利をもぎとる。


【背番号「1」の無念…広島新庄・波多野の夏終わる】

待ち望んでいたマウンドだった。上がったときは笑顔だった。「やはり夏の舞台は違っていました」。広島新庄のエースナンバーを引っ提げて波多野雄大は熱い思いをぶつけるつもりだった。しかし、その結果は無残なものとなった。

1点リードを許した8回1死三塁から3番手投手としてマウンドに上がる。舞い上がって落ち着きを取り戻せなかった。門田透にはストレートの四球で出塁を許す。続く樋口の投前バントをスクイズだと思って本塁で刺そうとした。しかし、三塁走者は動かずに慌てて一塁に投げて間に合わなかった。1死満塁から金尾には高く浮いたカーブをレフト前へ運ばれる。打者3人。高校時代、最後の登板は1つもアウトを奪えずに2点を取られて降板した。

2つ上の先輩、六信(むつのぶ)慎吾(現・法大)から引き継いでエースの座を射止めた。1年秋には広島大会決勝で波多野は先発している。その前までに連続完投をして、迫田監督の信頼を得た。トルネード投法で130キロ台後半の直球とキレの鋭いスライダーを武器にチーム秋季中国大会8強に貢献した。しかし、その後は右ひじ痛、腰痛に苦しんだ。投げたくても投げられない日々が続いた。3年夏には直前の練習試合2試合で登板して急ピッチで仕上げた。最後の夏は4試合に登板。「ギリギリで復帰できました。監督が使ってくれてうれしかった。期待に応えたかったです」。波多野は残念そうにグラウンドに目をやった。

迫田監督にも迷いはなかった。「あの場面は波多野しかない、と思っていました。その波多野で打たれたのだから仕方ない」。復帰に向けて必死になってリハビリに耐えてきた波多野を称えた。

1年秋の輝いた時期、その後の苦境…。波多野は両方を味わった。「できれば大学で野球をやりたいです。続けていきたいです」。最後まで迫田監督に恩返しはできなかった。その分、野球を続けることで報いるつもりでいる。

(文=編集部)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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