試合レポート

津vs津東

2011.07.24

大黒柱・川崎(津東)4回戦で力尽きる

 手負いだった。津東のプロ注目右腕・川崎貴弘は6月下旬の練習試合で右肩を痛め、その後は投球練習をしていない。「ぶっつけ本番」で挑んだ今夏、22日の皇學館戦では141キロをマークし、9回表に自ら決勝ホーマーを放って完封、シード校を破った。だがこの日はもはや球が走らず、状態の悪さは明らか。「ずっと投げていないので、調子が良いのか悪いのかも分からなかった」。マウンドを降りてライトに退くと、守備での足取りさえ重かった。

 「いつも川崎(に頼って)ばっかりで…。何もできなくてごめんな」。津東のキャプテン・中西健太は試合後、川崎を前にして、涙を流しながら溢れる思いを口にし、186センチの大型右腕に崩れかかった。星取りだけを見れば過去約10年、夏の大会で初戦敗退が続いた同校に突如現れた「プロ注目右腕」が川崎だ。必然的に周囲からは「川崎だけのチーム」と見られ、実際に川崎への負担も増える。チームのメンバーたちもそれは感じていただろう。だが、彼らだって成長を重ね、「全員でつらい練習を乗り越えて」(福森正文監督)春は県ベスト8まで達した。甲子園も視野に入るチームになっていた。それだけに、部員みんな、ここでの終戦が悔しかった。

 川崎の帽子の裏に「絆」という言葉が書いてあった。その文字や、中西の言葉に表れるようなチームメートの責任感を見るにつけ、「川崎だけのチーム」という見方は一面的であるとともに、9人の3年生を中心に上を目指してきたこのチームがもう見られなくなるのは酷だな、という思いがした。

 囲み取材で「プロに行くにしても、大学に行くにしても、超一流の選手になりたい。それが、支えてくれた人たちへの恩返しになる」と締めた川崎。「これからも頑張ってな」と告げた中西の思いも、川崎はがっしりと受け止めた。


 さて試合はというと、川崎のコンディションが悪く、初回から津東の劣勢だった。1対4で迎えた5回裏、浅井七洋の犠牲フライで2点差に迫ると、さらに川崎が二盗を試み、相手捕手の送球が逸れて三塁ランナーが生還した。だが、これと同時に三塁を狙った川崎はタッチアウト。川崎は背中から崩れ天を仰いだ。

 川崎がKOされた後は、福森監督が大会前「彼が成長したのが大きいんです」と喜んでいた2番手投手・岩谷俊孝がマウンドを守った。ただ惜しかったのは7回表に5点目を失った場面。連続死球で一死一・二塁とすると、次打者の投ゴロを捕球した岩谷が、「1→6→3」の二塁ゲッツーではなく、思わず三塁へ送球した。これに慌てた三塁手が「1→5→3」の一塁送球を悪送球。バックアップもないファールエリアをボールが転がる間に、一塁ランナーがホームを駆け抜けた。
 9回表は、「痛みがあっても投げると決めていた」川崎がこの日3度目のマウンドに上がり、最後の2打者からストレートで三振を奪った。まさに渾身のボールだった。

 試合後、敗れた津東は球場脇で“最後”のミーティング。福森監督はたっぷりと時間をとり、9人だけの3年生選手を皮切りに、2年生、1年生、マネージャーの全部員に話をさせた。泣いている選手も多かったが、ミーティングが終わり記念写真に収まる頃には、晴れやかな表情に変わっていた。


 勝ったは、春の地区大会(2011年3月27日)でも津東を下しているが、そのとき同様にエース金児尚弥のピッチングが素晴らしかった。緩いボールを効果的に使い、打者に本来のバッティングをさせない。ストレートも、迫力はなくとも見事にコーナーに決めて、打者は手が出ないか、打っても凡打。打ちにくい(打たれない)ピッチャーだ。見ていて安心感がある。こういうピッチングをされると、強豪校でも手を焼くだろう。
 打線も初回、1番・藤田翔也がいきなりのヒットで出塁すると、3番・庄山勲がセンターオーバーのタイムリー二塁打を放ち早速先制した。川崎のストレートをしっかり振り抜いた、意志のあるバッティングだった。庄山は3回表にもタイムリーを放ち、勝負強さを発揮している。1番・藤田、2番・松本遼平、3番・庄山はいずれも2安打を放ち、打点を挙げた。

 は県内で屈指の進学校。スタメンのうち6人が2年生、1人が1年生ながら、他校の3年生にも見劣りしないプレーぶりだった。ちなみに試合中、津サイドの観客席で写真を撮っていると、同校新聞部が前の試合の様子を記事にした「高新聞」を配ってくれたのは嬉しかった。

(文=尾関 雄一朗

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.05.02

【茨城】常総学院、鹿島学園、水戸一、つくば秀英が4強入り<春季県大会>

2024.05.01

【神奈川】関東大会の切符を得る2校は?向上は10年ぶり、武相は40年ぶりの出場狙う!横浜は6年ぶり、東海大相模は3年ぶりと意外にも遠ざかっていた春決勝へ!

2024.05.02

激戦必至の春季千葉準決勝!関東大会出場をかけた2試合の見所を徹底紹介!

2024.05.02

【長野】松商学園、長野日大、東海大諏訪などが県大会出場へ<春季県大会支部予選>

2024.05.01

春季大会で頭角を現した全国スーパー1年生一覧! 慶應をねじ伏せた横浜の本格派右腕、花巻東の4番、明徳義塾の正捕手ら入学1ヶ月の超逸材たち!

2024.04.29

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.26

今週末に慶應vs.横浜など好カード目白押し!春季神奈川大会準々決勝 「絶対見逃せない注目選手たち」!

2024.04.26

古豪・仙台商が41年ぶりの聖地目指す! 「仙台育英撃破」を見て入部した”黄金世代”が最上級生に【野球部訪問】

2024.04.28

【広島】広陵、崇徳、尾道、山陽などが8強入りし夏のシード獲得、広島商は夏ノーシード<春季県大会>

2024.04.28

【長野】上田西、東海大諏訪、東京都市大塩尻が初戦突破<春季県大会支部予選>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.21

【兵庫】須磨翔風がコールドで8強入り<春季県大会>

2024.04.22

【鳥取】昨年秋と同じく、米子松蔭と鳥取城北が決勝へ<春季県大会>

2024.04.22

【春季愛知県大会】中部大春日丘がビッグイニングで流れを引き寄せ、豊橋中央を退ける

2024.04.29

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?