試合レポート

大間々vs前橋育英

2011.07.16

難敵を打ち破れ。部員17名の夢を背負う大型右腕の夏

 ギラギラと光る太陽が若干傾きだした午後3時前。 国道17号バイパスと利根川に隣接する群馬県高崎市の[stadium]高崎城南球場[/stadium]では3試合目に入ろうとしていた。駐車場は、ほぼ満員御礼となっている。国道から球場への導入路は車の流れが続いている。

 次の試合は前橋育英高校が登場する予定になっている。サッカーでの知名度が非常に高く過去幾多の日本代表選手を輩出している。今春、関東大会での活躍によりセンバツに出場した。野球部もサッカー部に続けとばかりに春夏連続の出場を目指している。

 攻の主役、投の主役がおり選手層も厚く混戦模様の群馬県を頭1つリードしていると言っても良いだろう。牛崎君、茂原君、高橋亮君の強力クリーンナップの攻と池田君、高橋拓已君、山谷君の投。これらが機能して今春の甲子園となった。

 対するのは群馬県立大間々高校。

 群馬県県東部、みどり市に学校があり単位制の市内唯一の普通高校であり創立は1900年と同じ東部地区の桐生高校や太田高校に次ぐ歴史がある。野球部は昨夏は3回戦、昨秋は初戦、今春は4回戦で姿を消している。順調に新チームが育ってきていると思うが決して強豪高と言われる高校ではない。部員も総勢17名と非常に少ない。隣接する桐生市内に公立私立の野球強豪高が多数存在するのも部員不足の要因なのかもしれない。

 しかし今年の様相は少し違う。


 1年生時からマウンドを守る大川良介君。184cmの恵まれた体から放たれる140kmを超える速球と切れ味鋭い変化球が話題となっている。6月の練習試合では日本文理高校を完封した。とは言え選手層という意味ではやはり前橋育英に分があり、大川君が日本文理戦と同じ投球をしない限り前橋育英が有利と見えてしまう。

 大間々の先攻で始まった試合。前橋育英の先発は背番号10、145kmの速球を誇る2年生左腕の高橋拓已君。ダイナミックに足を上げ引き込んだ体重を乗せてくるボールは力があり速い。スピードガン表示が無い球場なので感覚だが140kmは超えていると思われる。曲がりが鋭くブレーキする遅めのスライダー(若しくは速いカーブ)は右打者の外角ボールゾーンから鋭くストライクゾーンに入ってくる。それ以上に素晴らしいのは右打者へのクロスファイヤー。あのコースにあのスピードで決められたら打ち返すのは至難の業だろう。

 1回は3者連続三振、2回は三振1つ含む三者凡退と大間々の攻撃を切って取る。

 大間々の先発は噂の長身右腕、大川良介君。184cm85kgの恵まれた体格から3/4から少し上がった位置から柔らかなテイクバックから重そうなストレートを投げ込む。135km から140km弱の速球と115km辺りのスライダーを主体に組み立ててくる。
 1回裏、四球x2、死球x1。2回裏、四球x1。3回裏、四球x1と立ち上がりが苦手な様だ。またコントロール精度も若干アバウトでランナー無しからもセットポジションで投球してくるのはその辺りが理由な様だ。前橋育英の高橋君と比べると速度は無いがベース手元で速度が落ちないというか加速してくる様に見える。

 序盤、立ち上がりが不安定な大川君の前にランナーを出すものの前橋育英はあと一本が出ない。得点圏にランナーは進めるものの盗塁死等で1点が遠い。


 3回表、今まで抑えこまれていた前橋育英・高橋君に遂に打線が牙をむく。四球で出た走者を8番ピッチャーの大川君が送りバントを決め1死2塁。ついに得点圏に走者を進める。9番中根君は死球で1、2塁のチャンス。1番に返り2巡目の大間々打線を迎えるが前橋育英の高橋君は外角いっぱいの渾身のストレートで大間々1番川島君を三振に仕留める。
 2番井出君にもストライク先行の投球を続けるが井出君が気合いで放った打球は、高橋君の頭上を抜け2遊間をコロコロと抜けていく。2塁ランナー深澤君の好走塁もあって際どいクロスプレーになるが大間々高校が1点を先制。続く3番、今泉君の打った打球はレフト頭上を高々と越え左翼席への3点本塁打。甲子園も経験した好投手高橋君から4点をもぎとった。

 前橋育英は4回裏にライト前ヒットの高橋拓已君に代走を出し5回から同じ左腕の山谷投手をマウンドへ送る。ガッチリとした体つきから柔らかいフォームで120km後半の直球と110km辺りの大きく曲がるスライダーを投げ込む。大間々の攻撃を3回無失点。四球を出したが無安打に抑え味方の反撃を待ち続ける。前橋育英は制球が安定しない大川君から3回裏は先頭打者が四球を選ぶが無得点。8回裏は1死から死球、四球でランナーを出すが得点することができない。

 8回表から前橋育英はエース池田君を投入。8回、9回の2回を無失点に抑え疲れの見える大間々・大川君から味方が得点してくれることを祈る。9回裏にヒット2本でチャンスを演出するが遂に前橋育英に得点が入ることはなかった。遠い遠い1点を待ち続けた投手陣の期待虚しく前橋育英の夏が終わった。大間々エースの大川くんは完投完封勝ちで持ち前の馬力を魅せつけた結果となった。


 次戦に向けて気になる点を挙げるとすれば立ち上がりの不安定さと終盤になりスタミナ切れからかフォームが崩れていたのがスタンドからはっきり解った。最後は精神力で投げているかの形相だった。最も相手を考えれば序盤から息をつく間が無かっただろうし、15時時点で隣接の伊勢崎市が38度を超え当日の日本最高気温を記録した事を考えればスタミナの消耗は普段の比では無かっただろう。

 エース大川君と3点本塁打を放った今泉君以外にも殊勲者が2名いる。ライトを守る川島君とファーストの大塚君の2年生コンビだ。
 川島君は160cmと小柄だが守備範囲が広い。驚いたのはそのポジショニングの良さだ。この日何回も外野を抜けそうな当たりや内野と外野の間に落ちそうな当たりを好捕していた。大塚君は4回表に中前安打の後 2盗、3盗成功。8回にも自らの中前安打の後、2盗、3盗成功と計4回の盗塁を決めた。大塚君に失礼だが体型から想像するに強打者タイプでとても俊足タイプに見えないのだが果敢に盗塁を試みてくる。

 試合終了後、応援スタンドへの挨拶が終わった選手を一人一人、ハイタッチや握手で迎える大間々・津久井監督の姿があった。監督さんの表情から今ままでの苦労や、この試合に掛ける想いを想像することは難しくない。2年前の夏、ベンチ入りメンバー2年生1人以外全員1年生で望んだ夏の大会。その時の選手たちが最高学年になり今こうして最高の相手に最高の挑戦者として対峙している。次戦の相手も強豪の高崎健康福祉大高崎高校。強豪が続くが自分たちの持ち前の野球を発揮して精一杯プレーしてほしいと思う。敗れたが高橋拓已君や茂原君など主軸の2年生が多くの残る前橋育英高校。秋以降、2年連続の選抜を目指して頑張って欲しいと思う。

(文=編集部

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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