試合レポート

有明vs人吉

2011.07.17

有明vs人吉 | 高校野球ドットコム

山下祐輝(人吉)

山下祐輝の要素

春より一段とたくましさが増していた。

人吉山下祐輝は、187センチ78キロというスペックを誇り、今夏の初戦では、鹿本農相手に1安打、15奪三振を記録した大型の本格派右腕である。

この日のスタンドは、溢れんばかりの観客で埋め尽くされていた。もちろん、日曜日ということもあるが、初戦で快投を演じた山下を目当てに見に来ていた人もいることだろう。

その山下、投手として何よりもいいのが、投球練習よりプレイボールがかかってからの方が、指のかかりよくなるところである。実戦の方に力が入ることは当然のことではあるが、これを自然にできるというか「マウンドに上がれば、アドレナリンが自然と出てくる」とでもいうような指のかかりと角度ある腕がさらにしなってくる。

138、137、139・・・

この試合でも当然の如く、山下は序盤からスコアボードに常時130キロ中盤から後半の球速表示をさせていた。
「さすが、ほとんど一人で人吉のマウンドを守り続けた絶対的エース、急激な成長曲線を描き始めたな」
筆者は今春以来の投げっぷりをみて、実直にそう思った。

だが、この日の山下はそれでもいつもの調子とは言えなかったようだ。完投した初戦から中2日での登板影響もあり、徐々に球威が落ちてきた。
「競る試合になるとは思っていたので、山下には気持ちを切らさずに粘り強くいきなさいと言っていました。でも(中盤に)疲れが見え始めて、ミートもされてきたので」と6回1死二塁の場面で、1年生の石本裕大にマウンドを譲り、山下はベンチへ戻った。

そして山下をリリーフした石本と8回から登板した川辺大志が粘り強く無失点で切り抜けたが、中盤までの3点が大きくのしかかり、試合はそのまま終了。人吉、そして山下祐輝の夏が終わった。

「去年の山下は、戻ってきたら泣いていたのですが、今年は強い表情をしていて、エースの自覚を感じました」
人吉の山本誠二監督がそう話すように彼が描く成長曲線は、エースとしての自覚という心の成長も大きかっただろう。


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涙を流す人吉の山下(中央)

実は春先、こんなことがあった。
春季大会のパンフレットに記載されている山下のスペックは184センチ75キロ。それにしても、なぜだかもっと大きく見える。175センチの筆者が隣で話してもいても首の角度をさらに上げて見上げてしまうくらいなのだから。どうしても気になってしまったので本人に聞いてみたら「この前、測ったら187センチでした」というのだ。
念のために今度は、山本監督に聞いてみたら「前に測った身長がそのままだったかもですね」と笑うが、それは同時に彼の身長がさらに伸びているということを指していた。
たまにパンフレットに記載されている身長よりも低いのではと感じることもあるが、それとは全く逆。
本人もそこまで自分の誇るスペックをアピールするところもなければ、気取るところすら感じさせない受け答えもする。そんなことを含めていい意味、本当に素朴な高校生だな。そう思った。

試合後、ダッグアウトから出てくるや否や泣き崩れる山下は、報道陣に囲まれながらも全く声にならなかった。それは最後の夏に敗れた悔しさ、3年間の思いもさることながら、エースとしての自覚が彼をそうさせたのかも知れない。
するとキャプテン・大渕朗が駆け寄ってきて、涙ながらにこういった。
「助けてやれんで、すまん・・よくやった。お前はまだ先があるんだぞ」と肩をたたいた。
そして泣き崩れる山下を代弁してくれるかのように大渕は「(山下は)ちょっと調子はよくなかったけど・・・頑張って・・低めに投げてくれて・・・守りやすかった。山下は大黒柱だったのでチームにとって支えになっていました」

中学までほとんど投手経験がなかった山下がここまで成長できたこと。それは、チームメイトの言葉が物語っているように、彼の素朴な人柄が、そうさせたのではないか。
近い将来、真っ向から勝負できる本格派になれる。山下祐輝はそんな要素を持っている。

(文=編集部:アストロ

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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