試合レポート

東洋大姫路vs宝塚北

2011.07.15

東洋大姫路vs宝塚北 | 高校野球ドットコム

先発した堀地

“夏の東洋”の意地

「夏の東洋」。

 これは、兵庫県内の高校野球ファンが、東洋大姫路が夏の大会に強いということを表現している修辞だ。59回選手権大会の全国制覇を含め、11度の選手権大会出場を誇っている東洋大姫路
 だが、近年は88回選手権大会に乾真大(現北海道日本ハム)、林崎遼(現西武)を擁してベスト8に進出したのを最後に、甲子園出場どころか夏の大会はここ4年間では県内でわずか2勝。90回、91回大会に関しては2年連続で初戦敗退を喫している。

 その間に県内のライバル・報徳学園は、夏の甲子園に3度出場し、ベスト8以上に2度もコマを進めている。

 もう、夏の東洋の時代は過ぎたのか―。今日の試合展開は、初戦ということを差し引いても、そんな空気すら漂いそうな一戦だった。

 この日の先発は背番号11をつけた左腕の堀地崇多。序盤はまずまずの滑り出しだった。だが、味方の攻撃がリズムに乗れないでいた。宝塚北のエース・兼森匡彦の下手から繰り出される球に惑わされ、攻略の糸口をつかめないでいた。

 が、完全にチャンスがなかったわけではない。8回まで短打や四球で回のように走者を送り込むのだが、あと1本が出ないのだ。対する宝塚北は3回裏、二死後から二塁打を放ち、暴投の後、四球で一、三塁。この後2番・稲谷直俊に対し、カウント3ボール1ストライクとしたところで、先発した堀地に替わり、プロも注目する本格派右腕のエース・原樹理がマウンドに立った。
原の1球目はストレート。威力のあるボールに、宝塚北サイドは圧倒されたかに見えた。
だが、隙を突いて一塁走者が盗塁をし、内野陣がもたついたところで三塁走者がホームスチール。思わぬかたちで先制を許してしまったのだ。


東洋大姫路vs宝塚北 | 高校野球ドットコム

エース原

 しかし、原のピッチングにはさほど影響はなかった。自慢のストレートがうなり、キレのあるスライダーとのコンビネーションで、宝塚北の打者のバットが空を切る。バットに当たる雰囲気さえない。3回二死からマウンドに立った原は、6回、7回に四球を1個ずつ与えたが、ノーヒットに抑えるなど完璧なピッチングを見せていた。

 だが、4回に9番打者の主将・中河宏輝のタイムリーで同点に追いついて以降、なかなか追加点が奪えない。

 3回は無死三塁、5回は無死・一、二塁のチャンスにいずれも無得点。この淡白な攻めには、「(相手エースの)下手投げには苦労はすると思ったけれど、思った以上に点が取れなかった」と、2月から監督に復帰した藤田明彦監督も、少々の焦りがあったことを明かした。

 昨年までは、まさに“悪夢”を味わってきた。昨夏に限って言うと、初戦の科学技術戦は1点を先行されたまま9回二死を迎え、意地の連打で劇的な逆転サヨナラ勝ち。なんとかもぎとった白星だった。その試合でマウンドに立っていたのがエースの原だった。

「(1-1のこう着状態が続き)厳しい展開が続きましたが、去年のことを意識はあまりしませんでした。今年はベンチの雰囲気も違うし、“負けたらどうしよう”という重たい空気もなかった。いつかは点を取れると思って、自分のピッチングに集中しました」。

 少々投げ急いだ場面もあったが、とにかくコントロールを重視した。点は取れなくても焦らない。9回を終えたところで、ベンチ前で円陣を組んだ時に、藤田監督も輪の中で絶叫し、気合いを入れ直した。


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宝塚北のエース兼森

“絶対に勝つぞ!”

 闘将の熱い気持ちにナインが応え、延長戦になっても集中力が切れることはなかった。同点打を放った主将の中河は言う。

「去年までは夏の大会の直前まで、練習をやり切ったという達成感があまりなかったような気がします。でも、今年は朝練をみんな自主的にこなしてきたし、最後まで追い込んで練習してきたという自負があるんです。だから、今日の試合も下を向く選手はいなかった。今日の勝ちは、去年の初戦を勝った時の雰囲気とは全く違います」。

 リリーフした原は、予想以上の長いマウンドになったが、“誤算”とは捉えていないようだ。

「1回戦でいきなり苦しい試合だったけれど、反対に言うと初戦から接戦を経験できたのは今後にプラスになるはず。今まで夏は悔しい思いばかりしてきたので、今年は県内の他のピッチャーには絶対に負けたくないです。この勢いを持って、今後も戦っていきたいです」。

 一方の宝塚北は、東洋大姫路を相手に大健闘だった。エースの兼森は、投手を初めてわずか1年。投手がいなかったチーム事情に、自ら手を挙げて転向を志し、最後10回1/3を投げ切った。

「持っている力の120%の力を出し切って、よく投げてくれた」と、小島寿和監督はエースの力投を称えた。

 原には、今まで経験したことのない酷暑の下のマウンドが今後待ち構えているだろう。
しかし、まるでそれを乗り越えられる自信が、試合後の表情には溢れていた。
“夏の東洋”は、まだまだ不滅だ。

(文=沢井史

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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