国府vs瑞陵
エースの河合和也(国府)
国府8年振り夏1勝 監督・副部長のメモリアルゲームに
勝った国府の田中典永監督は試合後、手放しで選手を称え、体中から喜びを溢れさせた。
「勝てば何でもいいよ。生徒のおかげ、生徒に感謝だよ。たかが1回戦だけど、大きいよ」。
それもそのはず、指揮官はこの夏を最後に監督の椅子を譲ると決めていたからだ。また、山本俊也副部長も定年退職を控え、今年がラストイヤーとなるからだ。
国府の初戦突破は、実に8年振り。数年前に田中監督が母校・国府に赴任してから、当然これが初めての夏1勝ということになる。記念すべき白星だ。
県外の人にとって国府は聞きなれない野球部かもしれないが、04年・05年はともにシード権を得て夏に臨んだ実力校。
昭和50年には、夏の甲子園大会に出場している「古豪」でもある。
その時に1番打者・二塁手で出場していたのが田中監督だ。ただ、この日の勝利に、「甲子園を決めた当時よりも嬉しい」と、母校で「最後」と決めた夏に挙げた1勝を、噛みしめた。
最大の殊勲者はエースの河合和也だ。驚くほどのスピードはないが、コントロールよく投げ分けた。
途中、6回裏無死から7回裏一死まで、いずれもストレートで4者連続の見逃し三振を奪うシーンもあった。これには本人「たまたまです」と笑うが、一時同点に追い付かれても粘れたのは、コントロールが乱れないからこそ。
筆者がとくに印象に残っているのは、河合が2回裏、相手の主軸を巧みに封じた場面だ。
4番打者・坂田英駿を簡単に追い込んで、4球目の外のボールを打たせて二塁ゴロに。
続く5番打者・岡上峻平には3球目の厳しい内角球を打たせて遊撃ゴロに。瑞陵の主軸・坂田を「1打席目に打って流れを作りたかったのに、追い込まれ方が悪かった」と悔やませた。
河合は昨秋まで公式戦で投げたことが無く、冬の間に伸びた選手。「エースになれるとは思っていなかったが、『エースになろう』という気持ちは常にありました」と、自ら走り込みを増やすなどして、この大舞台に立った。
池田圭(国府)
国府は、2年生のバッター陣が目を引いた。4番打者の池田圭は、180センチの体格から、左方向へ強い打球を飛ばす。7回表には、「しばらく長打が出ていなかったので、久しぶりに打ててよかった」という左中間タイムリー二塁打を放ち、試合を決定づけた。昨秋に腰を痛め、試合から離れた期間がありながら、2年生のこの時期で既に通算ホームラン数が13を数えるロングヒッターだ。
また、6番打者の左バッター・佐々木新悟も178センチで、3安打と活躍した。
「最近、少しずつ打撃が上向いてきていました。この試合に向けて調整してきました」と、順調なバッティングでアピールした。バットのグリップを高い位置に入れて、大きく右足を上げ、しっかりと踏み込むバッティングフォームは豪快。「(初戦を突破できて)先輩たちに感謝しないといけません」と、謙虚な気持ちも忘れてはいない。
7番打者の大坪一誉も、先制タイムリーを含む2安打と暴れまわった。
ちなみにこの試合のウイニングボールは、定年退職する山本副部長へ渡るそうだ。
一方の瑞陵は、キャプテン・伊藤恭浩のタイムリー二塁打などで同点に追いつく粘りを見せたが、それ以降は打線が沈黙した。
昨年7月17日の試合で紹介している強肩強打の坂田英駿は、2年生ながら4番打者・捕手として抜群の存在感を漂わせているが、今年の初戦敗退に「先輩たちはしっかりプレーしていたのに、申し訳ないです。(自身の守備では)ランナー三塁の場面でワンバウンド球を止められず、反省すればキリがありません」と目に涙をためて振り返った。
この日マウンドに上がった2投手(成瀬拓哉、岩田周也)はともに、坂田と同じ2年生。公立の進学校だからと贔屓する訳ではないが、来年また見たい高校だ。
(文=尾関 雄一朗)