八代東vs八代南
監督の指示を聞くナイン
強打・八代東の我慢
昨夏準優勝校の八代東から、夏の初戦独特の“硬さ”が取れない。
いや、むしろ“堅さ”と言った方がいいか?
昨夏は6試合で合計38点を挙げた強打の打線が、なかなか振っていけないのである。
――7点を取られるならば、8点を取ればいいじゃないか。
昨春の九州大会予選、4試合すべてで二ケタ得点の計58点を叩き出した八代東。しかし、3回戦の熊本国府戦を15-9で勝利しながら、その直後の準々決勝では熊本商に12-13と敗退。2007年に九州学院を倒して甲子園出場を決めた決勝戦も、スコアは8-6だった。たとえ勝とうが負けようが、こうした試合に象徴される“殴り合い”こそが、夏の熊本を3度制した八代東のお家芸といっていい。これは結果を見るかぎり、否定の仕様はなさそうである。
ところが、点火には時間を要してしまった。
同地区の八代南を相手に、5回までわずか1安打で無得点。八代南の先発・杉村知寛の投じる120キロ台の直球に、なかなかヒッティングポイントをアジャストできないのだ。そして、振っていけないのである。
5回までの打者16人中、11人がファーストストライクを見逃している。5度のファーストストライク打ちも、結果的にはヒットには繋がっていない。
「120キロ台とはいえ、手元で伸びていたのだと思います。自分たちのイメージではない球は見逃していいと言ってありましたから」
と、鬼塚博光監督は言う。ただ、
「たしかに慎重になりすぎていましたね」
八代東バッテリー
一方、数々の“殴り合い”を経験していく中で、鬼塚監督は「序盤に我慢すること」の必要性を痛感し、これを現場のナインに求めていった。
とくに夏は、戦いながらチームがどんどん実力を付けていくのが高校野球。一試合やひとつのトーナメントの中で、不測の流れに飲み込まれた時に、ここで動じない精神力こそが必要だというのだ。
そうして身に付いた「我慢」と、初戦の緊張感、杉村の直球。これに鬼塚監督の言う「意地でも負けられない」という“八代ダービー”という要素が加わるのだ。
さすがの強打線が本来のリズムに乗っていけなかったとしても、そこは仕方があるまい。
5回終了後のインターバルで、フラストレーションを溜めに溜めた打線に対して鬼塚監督がひとこと。
「杉村くんはテンポ良くストライクを先行させてくる。だったら思い切ってファーストストライクから攻めていこう」
このなんでもないひと言で、ナインは目が覚めたか。
1点を追う6回に打線は爆発。持ち味である大量得点能力を存分に発揮し、一挙5点で勝負を決めた。
同点打となった2番・鎌田亮のピッチャー強襲安打も、逆転打となった3番・西山貴人の右中間二塁打も、いずれもファーストストライクを仕留めたものだ。
「本当はイケイケ・ドンドンではなく、我慢して終盤勝負に持ち込む粘り強い野球が理想なんですけどね」
鬼塚監督はそう言って頭を掻くが、序盤に我慢を続けて見出した突破口こそが、結果的にはコールド大勝を呼び込んだのである。
相手を追い詰めてのファーストストライク攻撃、そして相手を追い詰めたファーストストライク攻撃。
我慢も集中打も、どちらも八代東の野球なのだ。
(文=加来 慶祐)