京都成章vs立命館
西野健太郎(京都成章)
気という武器を手に入れたエース
大会屈指の好カードとなった一戦は、先発したエースが互いに譲らず、1点を争う予想通りの好ゲームになった。だが、厳しいクロスゲームを制した瞬間、京都成章のエース・西野健太郎には、喜びよりもホッとした表情が溢れていた。
「初戦なので、接戦になるのは分かっていました。今日は立ち上がりも悪かったし、相手も強いのでどうなるのか分からなくて…。まず勝てて良かった、という気持ちです」。
今春のセンバツ大会で大舞台のマウンドを踏んだ右腕。しかし春以降は、投げることに対し、恐怖すら抱いた時期があった。
「センバツのことは(初戦で静清に3-9と敗退し、自身は6回1/3を投げて9失点)実はほとんど覚えていないんです。あの時、何を投げたか、どこに打たれたか…とか。頭に残っているのは、とにかく打たれた、ということだけ。たぶん、あの甲子園独特の雰囲気に飲まれてしまっていたような気がします」。
原因は、かねてから指摘されていた気持ちの弱さだった。
一度長打を許すと歯止めが利かなくなる動揺。
どうにか軌道修正を計ろうとしても、ズルズルと深みにはまってしまっていた。
センバツから帰り、そんな自分に対し自問自答する日が続いた。そして直後に迎えた春の府大会では準々決勝で優勝した立命館宇治と対戦し、リードしながらも2-6と逆転負けを喫してしまう。
「自分は投げていていいのだろうか…」。
練習試合でも、マウンドに立つことが怖くなった。また甲子園のように、春の府大会のように自分は打たれるんじゃないか。いつ、打たれてしまうのだろうか…。ボールと向き合えず、何かに怯える自分がいた。
でも、そんな自分を松井常夫監督を始め、周囲は誰も咎めなかった。むしろ「自分でよく考えて投げてみろ」と送り出してくれる指揮官の声が、自分を見つめ直させるきっかけを作ってくれた。
試合シーン
「もっと強い気持ちを持って、どんどん向かっていけばいいんだ」。
この日の西野は、抜群の立ち上がりを見せた立命館のエース・青地秀介と比べ、初回から安打で走者を溜めるなど、幸先の良いスタートを切ったわけではなかった。
ボールが先行するシーンも多く、コツコツ当てては安打を生み出していき、何度もプレッシャーをかけられていた。しかも5回の裏には、先制点を与えてしまう。バットを短く持ち、しつこく当ててくる相手の打撃にはイヤらしさすら感じたが、「何も考えなかった。冷静な気持ちで投げられた」と振り返る。
むしろ、ここという場面ではコーナーをうまく使い、絶妙な制球力も見せた。得意のスライダーもキレ味が増した。結果的には2点を奪われたものの、四死球は0。以前、四球か崩れていた投球パターンを思えば、及第点を与えてもいい。
「春までの自分だったら、しぶといヒットを打たれると、そのままズルズル引きこまれて点を取られていたと思います。でも、今日は気持ちでは負けたくない一心で投げました。最後の夏だし、悔しいままで終わらせたくないっていう思いもあったので…。粘り強く投げられたのは、少しでも成長できたのかも知れません」。
松井監督からは、これから頂点に勝ち進むための残り6試合も、すべて完投する覚悟で投げろと言われている。
西野ももちろん、そのつもりだ。
「今の自分だったら、気持ちで負けない自信があります。これからもっと厳しい試合もあると思いますが、今日のようなピッチングをこれからも続けていきたいです」。
春から、確実に1歩ずつ階段を登り続けてきた。最後の夏は、記憶に残る試合をずっと刻み込んでいくつもりだ。
(文=沢井 史)