鹿児島南vs奄美
笛田怜平(鹿児島南)
90球で完封
マウンドの土を入念にならすと立て続けにストレートを3球、そしてキュッと切れるスライダーを投げた。
鹿児島南のエース・笛田怜平は、プレイボール前の投球練習で自分の調子を確かめるようにゆっくりとゆっくりと投げ込んだ。
しかし、サイレンが鳴り響くと何かがおかしい、いつもの笛田とは違う。笛田を知る人はそう思ったかも知れない。
「今日は試合前から全然ダメでした。初戦なんで緊張して腕が振れていなかった」(笛田)
そういいながらも初回を三者凡退に打ち取り、2回からは低めのスライダーも冴え渡り、特に意識しなかったという奪三振も5回までに6つを数えた。
さらに4番打者の笛田は、バットでもみせた。0対0で迎えた4回、先制点の欲しい鹿児島南は2死二塁の場面で笛田が打席に入った。奄美のエース・山下海斗が投じた2球目、真ん中よりのカーブを見事に捉えると打球はセンター横を抜け、先制のタイムリーツーベースとなった。
「点を取るまで緊張していたので、(自分が)打てたことでピッチングでも、いい具合に力が抜けて次の回からは楽しく投げられました」
そんな笛田にとって今大会のテーマは、いかに省エネ投法ができるかだったが、初戦という特別な緊張の中でふと気付くとその意識を忘れていた。しかし、それを思い出したのは、先制点を入れ、余裕が出始めた5回のマウンドからベンチに戻ってきた時のことだった。
「ベンチに戻って聞いたら59球だったので」(笛田)と意識していることが体に沁み込んでいることに気付いた。そして無我夢中だったピッチングから冷静なピッチングへとさらにマウンド上で躍動していった。
そして“夏の初戦”という特別な試合を被安打3、投球数90球という省エネで白星を飾ったエース・笛田怜平。
その白星は、七夕の天の川のように鮮やかに輝いてみえた。
(文=編集部:アストロ)