天草工vs熊本農
東海大二ナイン
真っすぐな気持ち
今大会、開幕から33試合を観戦した筆者であるが、実はタイミング的に大会第14日目にして、初めて天草工の試合を見ることとなった。
2回戦で第1シード秀岳館に競り勝った天草工。
いったいどんなチームなのか。そんなワクワク感を抱きながらバックネット裏から食い入るように見つめた。
天草工のマウンドに立ったのは渡辺祐生。大矢野中学出身。
県内ではすでにご存じの方もいるだろうが、全国のファンのためにも説明しておこう。
実は渡辺は、昨夏、九州学院のエースとして甲子園ベスト8に導いた渡辺政孝(現・関東学院大)の弟である。
177センチ70キロ、右オーバーハンドから、“尊敬する兄”と同じく巧みな投球術で安定したゲームメイクができる投手だ。
渡辺は、立ち上がりからその巧みな投球術をみせ、順調な滑り出しをみせた。だが、3回、味方失策で出した走者を自らのボークでも進塁を許し、犠飛で1点を失った。
さらに1点ビハインドの5回、打ち取ったはずの飛球を味方が落球。それをきっかけに2点を献上した。
しかし、渡辺はさすがエースだ。「切り替えて集中しよう」と冷静さを失わなかった。
そして、いよいよ最終回。2アウト、もしかしたら最後の打者になるのか。そんな場面で打席に立ったのが渡辺だ。
「フライを上げずに叩きつけよう」(渡辺)
それは真っすぐな気持ちだった。放った打球は、詰まったが二遊間に転がり、渡辺は無我夢中で一塁ベースを駆け抜けた。
“セーフ”
これで1点差まで追い詰め、続く4番・前田博俊が左前へ適時打を放ち、9回2死から天草工が逆転に成功したのだ。
2回戦に続き、粘り強く勝ち上がってきたナインを見つめながら天草工の清崎剛監督はこういった。
「負けゲームでしたが、選手は諦めない気持ちがありました。選手はみんな素直というか素直過ぎるんですよね」
ベスト8まで勝ち上がった天草工の粘りの秘訣。
それは“真っすぐな気持ち”がそうさせたのではないか。見ている方も素直にそう思った。
(文=編集部:PNアストロ)