室戸vs宿毛
北川和矢(室戸)
“「けが」と闘う2人のエース”
高知県内の高等学校で最も東にある室戸の左腕・北川和矢。一方、最も西にある宿毛の右腕・中村岳。最速130キロをゆうに超える3年生本格派エースの競演が期待されたこのゲームであるが、その実現は残念ながら叶わなかった。
北川は終始直球の勢いは不足気味。度重なるひじ、肩の不安のせいか、昨夏県大会2回戦・明徳義塾戦で強打線をわずか1点に押さえ込んだスケールの大きさが示されることはなかった。
ただしその一方で、「秋以降に責任感や芯の強さ、エースらしさについて厳しく話をしたことで、淡々と投げられるようになった」と大利惠輔監督も評したように、四球2とこれまで課題となっていた制球に明らかな改善の跡が。この日も宿毛に8安打を浴びながらも1点に抑えきったのは、彼のテンポよい投球が好守を引き出していたからである。
白石貴大(宿毛)
そして宿毛の先発は中村でなく、これまでの2試合同様に右腕の白石貴大(3年)。
白石は地肩の強さを武器に、山岡翔矢(2年)の巧みなリードにも引っ張られて粘り強い投球を続けたが、8回表に味方の失策で力尽きることに。
そして1回戦は先発、2回戦では途中出場ながら左翼手として出場した中村は、7回裏に代打として出場した以外はベンチから声援を送るのみであった。
その理由は試合後、森裕嗣監督によって明らかにされる。
実は中村は冬に右肩痛を発症。一時は回復に向かうも春先に再発したことで現在の状態は2割程度。とてもマウンドに立てる状態ではなかったのだ。
「本人もジレンマを抱えていると思うが、我慢させている」とエースを気遣う指揮官。その顔は彼にとって最後の夏に万全の状態で臨ませたい気持ちがあふれ出ていた。
ちなみに室戸・北川は惜しくも1対2で敗れた準決勝・追手前戦でも無四球完投と、技巧派への変化は順調。何も「本格派」だけが投手の生きる道ではないし、高校野球の全てではない。「けが」と闘いながら自らがチームで活きる道を模索する2人が、最後の夏にどのような心身の成長を遂げてマウンドに立ってくれるのか。私たちはその過程を静かに見守っていきたい。
(文=寺下友徳)