東海大相模vs前橋育英
渡辺勝(東海大相模)
相模5人衆
やっぱり甲子園準優勝戦士は頼りになる。
試合序盤まで劣勢を強いられながらも終盤に追いつき逆転勝利を収めた。
逆転勝利のきっかけを掴んだのは1番渡辺勝(右/左 172センチ68キロ 外野手)、2番臼田哲也(右/右 180センチ75キロ 外野手)、3番田中俊太(右/左 174センチ70キロ 二塁手)、4番佐藤大貢(右/右 177センチ73キロ 捕手)、5番菅野剛志(右/左 172センチ68キロ 外野手)の5人である。
彼らの活躍で試合をモノにしたといっても良い。ます試合を振り返っていこう。
鮮やかな先制劇だった。
前橋育英は先頭の茂原がヒットで出塁。2番井田がバントでワンアウト二塁となって3番高橋がセンター前ヒット。センター臼田がバックホームしようとするが、臼田がファンブル。
打球は後ろへ転々。これで1点を先制し、高橋は三塁へ。そして4番牛山のタイムリーで1点を追加し、2対0とする。
相模有利と見られたこの試合。しかし1番の茂原がセンター前ヒットを打ったことで鉄壁の守備を誇る相模守備陣を浮き足立たせる当たりだったかもしれない。それが臼田のエラーにつながった。この2点によって前橋育英は観客に「このチームはやるぞ」と思わせた。大物喰いする条件の一つはこのチームは違うぞ、やるぞと思わせることだ。まさに見事な先制劇だった。
田中俊太(東海大相模)
しかし東海大相模はアグレッシブな走塁で同点に追いつく。1番渡辺が鮮やかなセンター前ヒットと3番田中の四球でワンアウト二塁となって、4番佐藤が打ち上げた飛球はレフトポール寄り。レフトが懸命に追うが、追いつかずに抜ける。渡辺だけではなく、田中も三塁を蹴って俊足を飛ばしてホームインしたのだ。
この走塁には驚かされた。ワンアウトである。抜けそうな当たりであってもハーフウェイするのが基本だ。しかしあの当たりはハーフウェイだけでホームに突っ込むのは抜けると確信して走らないと無理だ。まさにアグレッシブな走塁。相模野球を発揮した瞬間であった。
前橋育英も見事であった。同点に追いつかれた4回の表、二死から3連打で2点を勝ち越し。4対2とする。
5回の裏、1番渡辺がインコースに入る直球をいとも簡単に捉えていき、ライト線フェンスに到達する二塁打。
安打製造機・渡辺がまたもヒットを放つ。1年秋から見ているが、この選手、調子が悪い期間は神宮大会しか知らない。選抜でもいきなり二塁打を打ったし、夏では大活躍、そして今は抑えるのが難しい打者にまで成長している。そして2番臼田がレフト前ヒットで1点差に迫る。
7回の裏、一死1、2塁のチャンスを作る。打者は4番の佐藤。佐藤は右中間を破る二塁打で一気に二者生還。一塁ランナーが還るには難しい当たりだったが、田中の走塁が上手すぎる。好打堅守の田中も走塁の上手さも光る。アグレッシブな走塁で相模が逆転した。佐藤は強肩強打の捕手。彼の良さはライト方向に強い打球を飛ばすことができること。捕手としても投手を支え、頼もしいキャッチャーである。
そして5番菅野が右中間を破る二塁打を放ち、6対4。菅野は上位打線に比べると陰が薄いが、1年秋はレギュラーでミートセンスが光る打者だ。甘く入った球を逃さない鋭さを持つ。投手にとっては気が抜けない。
8回裏、一死一塁から2番臼田が外角のストレートを引っ張りレフトスタンドへ。この2番は普通の2番ではないのだ。長打も狙え、ヒットエンドランも狙え、バントも確実にこなし、右打ちができて、そして走れる2番打者である。2番という打順が彼を実戦的な外野手に育て上げた。
そして9回裏、エース近藤がホームランを打たれたが、抑えて、前橋育英を振り切り準決勝に進出し、選抜を当確させた。甲子園準優勝を経験しているこの5人。勝つためには何をすべきか分かっている。そして一つ一つのプレーに躊躇がなく、門馬監督が掲げる「アグレッシブ・ベースボール」を実践している。その彼らの活躍によって選抜出場へ大きく前進した。準決勝以降もやる事は変わらない。2年連続の関東大会優勝を目指して大暴れするだけだ。
高橋亮介(前橋育英)
敗れた前橋育英。打撃レベルの高い選手が揃っている。1番茂原真隆(三塁手 右/左 180センチ75キロ 1年)、3番高橋亮介(捕手 右/右 175センチ74キロ 2年)、4番牛崎洸太(一塁手 右/右 168センチ83キロ)をピックアップ。
茂原は1年生ながら180センチを誇る大型三塁手。いきなりライト前ヒットを放った。その後の打席は凡退したものの、スイングの鋭さ、打球の速さは中々なもの。まだミスショットすることは多いが、確実性が伴えば再来年の群馬県を代表する打者に成長する予感はした。サードの守備も足捌きがよく動けており、地肩の強さも中々。これからも注目していきたい選手の一人であった。
3番の高橋はミートセンスを兼ね備えた強打者。腰が据わり力みのない構えから上からしっかりと叩く好打者。スイングも力強く、打球も速い。ただ将来的には捕手というより外野手として生きていくタイプのように思えた。打撃のポテンシャルは高い選手で、これからも注目していきたい選手だ。
そして鷲宮戦(2010年11月2日)で本塁打を放った牛崎。この試合でも2点目のタイムリーを打った。懐の深い構えから醸しだす雰囲気は強打者と思わせるものがある。ヘッドスピードの速さ、打球の速さはずば抜けている。足を小さく上げてから。真っ直ぐ踏み込んで、腰を鋭く回転させる打撃フォームだ。縦の変化球には脆さがあるが、強く振ることができる選手なためこれからが楽しみな選手といえるだろう。
それ以外にも打撃のポテンシャルが高い選手が揃った前橋育英。あとは投手陣の整備。投打ががっしりと噛み合えば関東でも上位を狙えるチームであることは確かだろう。再び関東の舞台に舞い戻ることを期待したい。
(文・撮影=編集部 河嶋 宗一)