横浜vs高崎商
得点シーン
“何かが起こる” 横浜対高崎商
何かが起こる――。
このカードには、そんな予感が漂う。
横浜対高崎商。
強豪私学に古豪県立。一見、横浜が圧倒しそうな雰囲気だが、なぜかそうはならない。
松坂大輔を擁して横浜が無敗を誇った1998年には、松坂らの引退後の秋の関東大会準決勝で対戦。
1、2回に高崎商が5点を挙げて、8回終了まで5対2とリードした。
ところが、9回にドラマが待っていた。高崎商のセンターが2つのフライを落球してまさかの5失点。
2つめは、1点リードの2死一、二塁の場面。捕っていれば横浜の公式戦連勝を止める大金星というフライだった。
それでも、その裏に驚異の粘りで2点を返して延長へ。敗れはしたものの、大健闘といえる戦いぶりだった。
再び秋の関東大会準決勝で対戦した2005年には、川角―福田のバッテリーで翌春センバツ優勝を果たす横浜を左腕エースの石川が4安打1点に抑えて3対1で勝利。横浜圧倒的有利の下馬評を覆し、7年前の雪辱を果たした。
しあシーン
そして、2010年秋。
三たび顔を合わせることになった。
過去2回はいずれも群馬県開催の準決勝。さらに高崎商のエースが左腕だったが、今回は埼玉開催の2回戦で高崎商エースは右腕。
そんな違いがあったからだろうか。
序盤から横浜ペースで試合は展開する。
1、2回はともに2死から四球で出た走者を二塁打で返して1点。初回の樋口、2回の青木ともに2ストライクに追い込まれながら、内角のストレートを狙い打ちしたものだった。
その後も高崎商はエラーやバッテリーミスが絡んで失点を重ね、7回表が終わって横浜が7対0と一方的にリード。7回裏も2死二塁から川浦の打球はセンターへのフライを打ち上げ、ドラマは起こらないかと思われた。
だが、歴史はくり返される。
右中間への当たりを、センターの排崎がグラブに当てながら落球したのだ(記録は二塁打)。ここから、息を吹き返した高崎商の怒涛の反撃が始まった。
続く湯浅がセンター前にポトリと落ちる二塁打。さらに内田も右中間へ二塁打を放つと、木村もライト前に弾き返して一挙4点を返した。
9回も、先頭の投手の関が浅く守っていたライトの頭上を越える二塁打で出塁。
1死後、湯浅が中前安打で山内をKOした。なおも、代わった斎藤から、内田が四球、木村がショートのグラブを弾く安打で1点差に迫った。
この後、2死一、三塁となり、山崎の打球はファースト後方への小飛球。あわや頭上を越すかという当たりだったが、一塁手の橋本がジャンプ一番捕球して試合終了。
コールドペースの展開は一転、7対6で横浜が何とか逃げ切った。
緊急登板した斉藤投手(横浜)
この試合、気になったのが横浜ナインのプレーぶり。
7回に劣勢となるや、急激に動きが悪くなった。
「(落球とポテンヒットで)がっくりしてしまった。気持ちの問題です」と山内が動揺すると、捕手の近藤もライトからの返球を逸らしてしまう。
9回にはショートの青木がゴロを弾き、ピンチでマウンドに上がったエースナンバーの斎藤はまったく腕が振れなかった。
最初の打者にストレートの四球を与えた後は、変化球の連投で何とか窮地を脱したが、渡辺監督に「山内以上に恥ずかしい。夏も経験してるんだから、もっとズバズバいかないと。精神的に弱いからリリーフは難しい」と言われる始末だった。
もちろん、これは試合に出ている選手たちだけではない。
ベンチにも余裕のなさが表れていた。
「9回の(先頭の)二塁打でベンチがあたふたしているのがわかりました。1点取られたらピッチャーを代えるんだなという感じでしたね」
高崎商・住吉監督もそう言ったように、落ち着かない雰囲気は相手ベンチにも、スタンドにもはっきりと伝わっていた。
甲子園常連の横浜だが、今の1、2年生は甲子園を誰も経験していない。
それが影響しているのか。
それとも、“何かが起こる”高崎商戦だったからなのか。
夏から左右二枚看板を含むバッテリーが残り、関東大会でも優勝候補筆頭の呼び声高い新チーム。
九死に一生を得て、生まれ変わることができるか。
ピンチでの守りに真価が問われる。
(文=田尻 賢誉)
(撮影=高校野球情報.com編集部)