東北vs光星学院
中川貴文(東北)
気遣い ~周りが見える力~
3年ぶりの優勝を果たした東北。エースで主将の上村健人が被安打14ながら要所を締め、3失点完投。攻撃でも安打、打点、得点、犠打など、何かしらに全員が絡んだ。失策もゼロ。試合終了は、ライトの茶谷良太が右中間を抜けようかという当たりにグラブの左手を目一杯伸ばしてナイスキャッチ。全員でつかんだ勝利だった。
準決勝の試合後、東北の選手がスタンドにいた五十嵐征彦監督に用事を頼まれた。監督のもとから去り、スタンドの通路を歩いて仲間のもとに戻ろうとしたとき、ごく自然に足元に落ちていたコンビニのビニール袋をサッと拾った。その選手は背番号9の宝田慎太郎。いつもやっていなければ出てこない自然さだった。
翌日の決勝戦。東北の勝利が決まった瞬間、東北ナインは喜び合いながら整列した。その興奮冷めぬ列の中、ある選手が光星学院最後の打者・田村のバットをそっと拾い、光星学院の選手に手渡した。他の選手は足元など気にしていない。その選手はファーストの中川貴文。この日、2安打を放っていた。
さらに、ベンチ入りできなかった選手たちは決勝の後、スタンドを清掃していた。1塁側だけでなく、3塁側も。関係者に聞くと、自主的にやっているそうだ。
こういう取り組みが優勝という結果に結びついた、とは言い切れない。やっていないチームが勝つこともあるし、やっていても結果が出ないチームだってある。だが、優勝したチームのこういう姿が他に影響を与える。結果に結びつかないチームは、それでもやっている行動が正しいと確認し、おろそかにしているチームは見習う。それが、気持ちのいい野球場になっていくのだと思う。
(文=高橋昌江)