藤蔭vs大分
試合に集中する藤蔭ナイン
新生・藤蔭の第一歩
藤蔭がシーソーのように揺れ続けた試合を制し、13季ぶり3回目の優勝を飾った。
春夏計2度の甲子園出場を数える大分県私学の雄。
昨春に就任した原秀登監督にとっては、わずか1年半で九州へと到達したことになる。
「藤蔭が変わった」
という声は、昨年来よく耳にはする。
私生活、学校生活。大会期間中、球場内外ですれ違う際に見せる振る舞い、姿勢。
とくに挨拶については、腹監督の就任とともに大分県をリードする存在にまでなったといっても言い過ぎではない。
主将の城向孝明は「礼儀を守る。挨拶をしっかりとする。これを守り続けてきたことが、こうして結果に結びついたことが嬉しいです」と、ニコリともせずに優勝インタビューに応えた。
精神面の鍛錬といえば「魂・知・和」野球で今年の春夏を制した興南。やはり全国屈指の強豪をモデルに、チームをまとめているのだろうか?
「もっと身近なところにも、見習うべきチームはあります。たとえば竹田の選手はひとり残らず全力疾走しているし、5回終了のグラウンド整備でも、もの凄いダッシュでキビキビと動いていました。こういう部分を自分たちも真似るようになりました」
九州大会に向けても「礼儀・全力・心」で頑張る、と城向が言い切った。
原監督(藤蔭)
90年夏に藤蔭が甲子園初出場を果たした際に、主将を務め開会式で選手宣誓を行なっている原監督。
就任1年半で県を制した最大の勝因を「我慢ができたから」だと見ている。
原監督は就任と同時に「まずは挨拶をしっかりしよう。『チワ』ではなく『コンニチハ』とハッキリ言おう。当たり前のことが当たり前にできる大人になる為に、私生活から見直そう。日頃の態度は野球にも表れるのだから」と、チームを一から作り直す決意を宣言した。
「子供たちのノビシロって、技術的点より精神的点にこそあると思うんです」という原監督は週に数日、寮で選手たちと同じ釜の飯を食う。
部長、副部長を含めて、私生活をきめ細かく指導しながら、選手たちの心境の変化や真意などを読み取っている。
一方、プレーの面では「送りバントをきっちりと決めよう。バント処理をしっかりとしよう。ファインプレーはいらないのだから」という方針を徹底してきた。
これも原監督が日常生活から我慢強く言い続けている「当たり前のことを当たり前にこなせるように」と見事に符合するのである。
その結果、選手たちは“耐えることのできる人間”に成長し、明豊戦での逆転劇、決勝での振り切り劇を演ずるまでになったのだと原監督。 我慢の勝利である。
「この優勝で“野球だけやっていてはダメなんだ”ということが、あらためて分かったはず」(原監督)
春夏連覇の興南をはじめ、全国クラスの名だたる強豪が集う九州大会。
藤蔭にとっては、モデルケースとなりうるスタイルを持ったチームも多い。
原監督の方向性が間違っていなかったことは、今回の大分県制覇で実証した。
また、センバツを賭けた九州大会で得られる経験値が、若いチームにとってこれ以上ないカンフル剤にもなるだろう。
新生藤蔭は今年よりも来年、さらに再来年と、まだまだ強くなっていく。
(文=加来 慶祐)