試合レポート

宮崎日大vs宮崎商

2010.10.03

2010年10月02日 アイビースタジアム

宮崎日大vs宮崎商

2010年秋の大会 第127回九州地区高校野球宮崎大会 3回戦

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武田(宮崎日大)

エースで四番

 宮崎日大・河辺寿樹が笑いながら武田翔太の4番起用を説明してくれた。
「いないんですよ。4番を任せられるだけの選手が。誰かいますか? いないでしょ。武田は体がデカイので、飾りです。あいつが4番というだけで、よそが勝手に警戒してくれますから」

 武田翔太といえば、185cmの長躯を活かした角度のあるスピードボールを武器とする宮崎県屈指の本格派右腕で、前チームから1番を背負う宮崎日大・不動のエースである。
中学時代にはすでに軟式で142キロを計測し、今夏8月には樟南との練習試合で自己最高の151キロを記録。
常に同学年の宮崎商吉田奈緒貴と比較され、“完成度の吉田”、“将来性の武田”と高評価を二分してきたスーパー右腕だ。

 この試合で、そのふたりが激突した。宮崎が九州に誇る投手戦ということで、アイビースタジアムのスタンドは雨中にもかかわらず夏のような熱を帯びたが、むしろ個人的に気になったのがオーダー用紙に記入された「4番・武田」の文字である。

――エースで4番
 河辺監督が言うところの「向こう気が強いわけではありませんが、生意気な点がまるでなく、絶対に野手のせいにしない」武田が、この重責に耐えうるのかどうか。

「じつは“エースで4番”のオーラを作る方法を見つけたんですよ。その方法とはシンプルで、バックへの声掛けを怠らないこと。そして味方の失敗をマウンドや打席でカバーし続ける。そうやっていくうちに、オーラが出せるんです」
 もともと大口を叩けるタイプではない。根が素直な高校生だけに、まんざら冗談で言っているとも思えない。武田本人が「オーラは作れる」といえば、本当に作れてしまうのだと思えてしまう。


武田(宮崎日大)

この試合で武田が果たした最初の大仕事は、一死二塁で回ってきた初回の第一打席だ。
最速148キロを誇る吉田のストレートを振り抜くと、打球は低い弾道で左中間を真っぷたつ。二塁走者の峰を悠々と本塁に生還させた。1点を争う投手戦が予想される中で、まずは先制点を叩き出した貴重な一本。
これこそが4番打者の仕事だと言わんばかりに、三塁ベース上で大きく胸を張る武田。
その後、吉田が5番・明神敬恭からスライダーで奪った三振があまりのきれ味だった為に、宮崎商の捕手・平野友聖が後逸。この間に武田は2点目のホームを踏んだ。
武田が放ったのはこの1安打のみに終わったが、吉田を前に多緊張感に包まれていたナインを解き放ったという意味でも、勝利打点となったこの一打には価値がある。

 エースとしての武田はというと、9回を投げきり120球を投げての3失点、被安打6。代名詞の奪三振は7で四死球が2。吉田のスライダーがタテ軌道で手元で鋭く変化するのに対し、武田のスライダーは言葉どおりのスライダーで、横に大きく稼動する。これがキレていた。また、カーブを駆使してのカウント調整が効果的で、投球術という点でも大きな成長を見せつけたといえる。


完成されたエース・宮崎商 吉田

ちなみにこの日の最速は手元の計測で147キロ。何よりあの吉田奈緒貴に投げ勝ったのだから、エースとしての仕事も充分に果たせたのではないか。

ところが自己採点が辛い。
「要所でホームベースを踏ませない投球はできたつもりですが、内容自体には満足していません」
 河辺監督もまったくの同感で、
「よくなかったですね。三振が少なすぎますよ。正捕手が怪我をしているという点を差し引いても、3から4割程度の出来だったと思いますよ」

 最大のライバルと見なす吉田との直接対決に、力みが生じてもそれは仕方がないことだ。
「意識しましたね。いつも以上にマウンドへの上がり方にも気を配りましたし……」
 白線を踏まない、マウンドに一礼する。こうした日常のルーティンに一糸の狂いが生じないようにと、そのず太い神経をかなり消耗させていたらしい。

 試合の流れを方向づけた初回の先制打、そして9回完投勝利。ここは素直に「エースで4番」という重責を見事に果たしたと評価すべきだ。宮崎日大の“エースで4番”が、九州大会進出へとまた一歩前進した。

(文=加来慶祐

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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