【侍ジャパンU-18総括】投打の収穫、課題を一挙総括!世界で活躍するための課題とは?
世界一へ向けての課題とは?
9月1日から始まった第28回WBSC U-18ベースボールワールドカップはアメリカの優勝で幕が閉じた。日本は銅メダルに終わり、世界一へ向けて課題が残る大会となった。世界一を狙うには改めて何をしなければならないのか、考えていきたい。
打てるだろうという思い込みは危険
今年のメンバーは野手の顔ぶれでいえば、史上最強という評判だった。高校通算111本塁打の清宮幸太郎(早稲田実業)、甲子園で数々の打撃記録を塗り替えた中村 奨成(広島広陵)、高校通算65本塁打のスラッガー・安田尚憲(履正社)、神奈川大会5本塁打を記録し、打撃技術の高さは超高校級の増田珠(横浜)と、能力が高い逸材が揃っていた。彼らの打撃を見れば、国際大会で活躍できると思うはず。しかし4人とも厳しい結果に終わった。
4人の成績は以下の通りだ。
清宮幸太郎 9試合 41打数7安打 2本塁打6打点 打率.219
中村奨成 8試合 25打数3安打 0本塁打0打点 打率.120
安田尚憲 9試合 34打数11安打 0本塁打5打点 打率.324
増田珠 9試合 19打数3安打 0本塁打3打点 打率.158
チーム本塁打は3本に終わり、韓国の6本、アメリカの5本(決勝戦の1本を合わせて6本)カナダの9本と比べると長打力は劣った。4人の中で、安田は打率3割超えたとはいえ、ノーアーチ。安田の潜在能力からすると物足りない結果に終わった。大会中、選手たちのかなり苦しんでいる様子だった。清宮も「くそボール振ってしまい、情けない。自分でもわかっているんですけど…」と打撃フォームの狂いが修正できず、見極めがうまくいかなかった。そして安田はタイミングの取り方に苦労し、体の突っ込みを防ぎながら、投手との距離感を保つ工夫を重ねてきた。
中村も「これほど悪いのは、記憶にない」とショックを受けるほど。投手のレベルの高さも衝撃を受けたようで、中村は初球スタイルに徹していたが、ストライクカウントが重なるほど、自分の打てる球がないと語る。
「だから曲がるな!と思っていましたね(笑)でもストレートも曲がるんですけど」
海外の投手たちに翻弄されながらも、大藤敏行コーチのマンツーマンの指導を受けながら、打撃修正を図ってきた。3位決定戦のカナダ戦では痛烈なセンター前ヒット。中村は声をあげながら、一塁へ到達した。
増田も「こんなに長い期間、調子が悪いのは初めて」と苦悩を打ち明けた。今までは自分の悪いところをすぐに直すことができたが、今回はなかなか修正できなかった。しかし最後のカナダ戦で2安打。試合後の増田はいつもより晴れやかな表情だった。4人とも苦しみを感じながらも乗り越えてきた。それは大きな力となるだろう。
だがこの4人ならば「打てるだろう」という周囲の思い込みはあった。だが、国際舞台ではそうではないということを改めて認識しなければならない。4人とも口を揃えて「今回の海外の経験は今後の野球人生に生きるものだった」と振り返る。前向きにコメントする姿を見て救われる思いだが、国際大会の活躍は選手たちの野球人生に良い意味で変えてくれる。国際大会の活躍により、その後の野球人生で活躍している先輩たちのように。この4人にはそういう成功体験をぜひしてもらいたかった。
[page_break:藤原、小園の2年生コンビの活躍が光る]藤原、小園の2年生コンビの活躍が光る
今回は海外の打者たちと見る機会が多かったが、彼らは潜在能力が高いだけではなく、打つ形がしっかりと決まっていた。トップをしっかりと取り、自分の間合いでボールを待ち、ストライクゾーン、ボールゾーンの見極めをしっかりとして、強い打球を打てるスイングができていた。
今後は「能力が高いから打てるだろう」ではなく、「慣れない海外の投手と対応するには、どんな準備をすればいいのか?」という視点で海外に向かっていかなければならない。現場もそう感じていたようで、小枝守監督は、「金属バットから木製バットへ移行する時間が短いですし、木製バットで打てる打ち方を習得するのは大変です。ここの適応が課題ですね」と語るように、学校生活で動く日本の高校野球は世界大会のために準備する時間が少ない。ただこの問題は長年語られている課題である。その準備は野球界全体で取り組まなければならない課題であり、少しずつ変化をしなければならないだろう。
不振にあえぐ野手が多い中、2年生2人の活躍が光った。小園海斗(報徳学園)は、チームトップとなる打率.389、藤原恭大(大阪桐蔭)は打率.333を記録。小園は、右、左へ打ち分ける打撃技術が光り、藤原は145キロ級の速球に対してもしっかりと対応できる打者で、本当に2年生とは思えない打者であった。来年はアジア選手権が行われるが、この2人が軸となって、活躍することは間違いない。良い経験が積めたと思うし、2人を選んだのは大正解だった。また3年生では、強打の二刀流、櫻井周斗(日大三)も打率.333と好成績、櫻井は「ボールは見逃し、ベルトよりに来たボールを見逃さない」と決め9安打を放った。高い集中力を発揮し、結果を残した櫻井。打者としての評価も高くなりそうだ。
活躍が光った左投手は縦の変化球がカギ 右投手は世界で通用するストレートの強さを
一方、投手陣はチーム防御率2.14、80回、119奪三振と世界の強打者たちに好投を見せた。中でも好投を見せたのは、田浦文丸(秀岳館)。リリーフを中心に、13.2回を投げ、29奪三振、防御率1.32。奪三振率は驚異の19.10と圧巻の投球成績を見せた。甲子園のピッチングでは、不調に終わったが、U-18では甲子園の不調を取り返すピッチング。140キロ前半のストレート、分かっていても打てないチェンジアップ、スライダーのコンビネーションが完璧だった。田浦は、「海外の打者は思い切って振ってくれるので、投げやすかった」と語るように、国際大会のピッチングにうまくフィットした投手といっていいだろう。
プロ志望だという田浦。この大会で大きく評価を上げたことは間違いないだろう。今大会、選出された左腕投手はしっかりと成果を残した。川端健斗(秀岳館)は、14.1回を投げ、25奪三振と三振を多く奪った。山下輝(木更津総合)は、7.2回を投げ、10奪三振、磯村峻平(中京大中京)は、10回を投げ、17奪三振、防御率1.80と好成績を収めた。4人ともよかったのは、チェンジアップ、フォーク、縦スライダーなど縦の変化球の精度が高かったこと。これから侍ジャパンU-18代表を狙う高校生左腕はストレートは常時140キロ前半は投げられ、内外角への投げ分けができる制球力を身に付けること。そして縦の変化球をウイニングショットにできるといいだろう。
右投手では、徳山壮磨(大阪桐蔭)は投球術の巧さで3試合で防御率2.51と好成績を収めた。しかし平均球速135キロ~130キロ後半。海外の打者相手となると迫力不足。徳山を軸に進めてきたが、やはり世界一を目指す上では、もう一枚必要となる。そういう意味で、三浦銀二(福岡大大濠)の投球は今後、世界を戦う上で大きなヒントとなる投球だった。
下半身主導のフォームから、常時140キロ~145キロのストレートは回転数が高く、速球主体の投球でも抑えてしまう球威は「強さ」があった。三浦は12回を投げて、防御率0.00、19奪三振、四死球2と安定感抜群のピッチングを見せた。3位決定戦では7回12奪三振無失点。145キロ以上も10球以上計測し、さらにコーナーぎりぎりにしっかりとコマンド。小枝守監督も「久しぶりに絶好調の三浦君を見ました」と驚きのピッチングを見せた。三浦を見て、世界で活躍できる右投手は、常時140キロ~145キロのストレートを投げられ、コマンド能力が高く、縦の変化球も決め球としてもっているのが基準となるだろう。また強豪国の投手を見ると、多少荒削りでも140キロ後半~150キロを投げられる投手は、力で押し込んで抑える投球が見られた。総合力が高い投手も大事だが、速球派投手も世界一を狙うには必要な投手だと感じた大会であった。
世界一へ向けて課題が見つかった。今回の大会で浮き彫りとなった課題をしっかりと消化し、来年のアジア選手権、再来年の世界大会では、優勝を狙えるチームになることを期待したい。
(文・河嶋 宗一)
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