興國vs履正社
興国劇的サヨナラ呼んだ「守備&犠打」
履正社vs興国の一戦は壮絶な試合となった。
春にも対決しており、興国が勝利しているが、夏は苦しい戦いになると想定していた喜多 隆志監督は「うちはスター選手もいないので、束になって戦う必要がある」と語るように、試合序盤から攻めの姿勢を貫いた。喜多監督はファーストストライクから打っていくことを指示した。
1回裏、履正社の先発・金澤 祐太を攻め立て、一死一、三塁から4番・池上巧馬の犠飛で1点を先制する。どの選手も安定感のある構えからボールを手元まで呼び込んでレベルスイングができる。理にかなった打ち方をしている選手が多く、相当鍛えられているのが分かる。
興国の好左腕・田坂 祐士はストレートのスピードは常時130キロ~135キロと数字だけ見れば、特別抜けたわけではないのだが、球筋、フォームを見るとかなり良い投手というのが分かる。セットポジションから始動し、スリークォーター気味に腕を振っていくのだが、テークバックが小さく、シャープに腕を振っていく。
ストレートは回転数が高く、特に高めのストレートに対しては思わず空振りをしてしまうほどの切れ味がある。変化球は高めに浮くことがあり、田坂はストレート中心の攻め。履正社はストレートと分かっていても詰まってしまう。5回まで1安打に抑えた。
履正社の金澤は右スリークォーターから130キロ前半(最速133キロ)の直球、120キロ前半のフォーク、大小のスライダー、カーブと球種が多彩。初回こそボールが高めに浮いていたが、変化球の割合を増やし、タイミングを外すことを意識した投球パターンで、興国打線を抑えていく。
しかし5回裏、二死一塁から3番・山田 直也の右前安打で一、三塁とチャンスを広げ、4番池上が変化球を捉え、適時打で2点目。履正社は金澤がマウンドに降り、エースの渡辺 純太がマウンドに登る。渡辺も押し出し四球を与え、興国が5回を終わって3対0とリードした。
だが7回表、履正社打線が反撃開始。三木太介の二塁打から始まり、真鍋 蒼次朗の中越え二塁打で1点を返し、無死満塁から押し出し四球、二死満塁から4番松林 克真の左前適時打で1点を返す。そして5番片山が放ったレフトの大飛球を興国のレフト・渡部 颯が背走しながらキャッチ。最後はフェンスにぶつかりながらも執念の捕球だった。これが両チームにとっても大きなプレーだった。
勝ち越しを狙う履正社の渡辺純は常時130キロ中盤~138キロの直球を両サイドに投げ分け、さらに120キロを超える切れのあるスライダーも低めに集まり、強打の興国打線を抑えていく。
また興国の左腕・大江 遼也(3年)は120キロ中盤の速球と決して速くないのだが、110キロ近いスライダー系の変化球が大きく曲がる。強打者揃う履正社相手にも臆せず勝負ができる。興国の捕手・山下 健信は「夏にかけて度胸が強くなってきた」とメンタル面の成長を称える。
試合は9回、そして延長12回まで決着がつかず、13回に突入した。13回から無死一、二塁のタイブレークとなり、まず履正社は犠打で進め、9番渡辺純の遊ゴロの間に1点を勝ち越し。しかし興国もバッテリーミスで追いつき、14回表を無失点に抑えると、14回裏、一死満塁のチャンスを作り、2番・中村 完爾の右越え適時二塁打でサヨナラ勝ち。興国は46年ぶりの決勝進出を決めた。
興国が素晴らしかったのは守備と犠打。大事な場面でとにかく犠打が決まった。中村は「普段のフリー打撃の時にもバントは欠かさず、走者を入れて、状況を想定したバントを常にやっています」と普段の練習で愚直に重ねてきた犠打練習が履正社戦で発揮された。
次の相手は大阪桐蔭戦だ。昨秋は5回コールドで敗れ、改めて守備の大事さを痛感し、1年かけてチームを作り上げてきた。甲子園出場へ向けてベンチ入り選手の力を結集して頂点を勝ち取る。
(文=河嶋 宗一)