試合レポート

春日部共栄vs浦和実

2019.05.05

続・インコースストレートの攻防

春日部共栄vs浦和実 | 高校野球ドットコム
豆田泰志(浦和実)

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 例年の埼玉県春季大会決勝戦というと、ここ数年は浦和学院花咲徳栄のカードが定番であったが、今年は春15年ぶりとなる春日部共栄対春は初の決勝進出(秋の決勝進出は19年前)という浦和実業というフレッシュな顔合わせとなった。

 この両者は昨秋の準決勝でも対決しており、その時は延長12回の末、1対0で春日部共栄が勝利している。浦和実業にとってリベンジマッチとなるが、この試合はセンバツ出場のかかった秋とは意味合いが違う。既に関東大会もAシードも決まっており、しかも前日の準決勝で豆田泰志(2年)が6回1/3、三田隼輔(3年)も2回2/3を投げている。さらに昨秋の春日部共栄戦で豆田、三田両投手共に投げており、球筋は既に見られている。浦和実は他の投手を試すか、三田を先発させるかと思われた。だが、このGW大入りの[stadium]県営大宮[/stadium]球場決勝の雰囲気で投げられる投手ということを考え新しい投手を先発させることを諦め、三田、豆田と順番を入れ替えることも嫌った。必然的にいつも通り豆田を先発させるという選択肢となる。だが、彼はまだ2年生であり、無理はさせたくない。3,4イニングが目途と聞いていた。

 インコースへの制球が良い豆田が先発するということは、前回同様テーマは、春日部共栄打線対浦和実業・豆田のインコース攻めという攻防戦となる。ただし、豆田は一冬を越し球威、球速がUPしている。この日も連投ながらMAXは前日より1km上がり139kmを計測するなど万全である。一方の春日部共栄打線も浦和実業戦後の活躍は言うまでもないが、横浜・及川を粉砕するなど関東大会決勝まで駆け上がりセンバツへ出場した。不祥事による監督交代やセンバツ初戦大敗のショックもあったか、今大会はこれまでやや本来の打棒は見られないが、それでも大会が進むにつれ徐々に復調の気配を感じる。

 春日部共栄は、先発に前日同様エース村田賢一(3年)以外を試す選択肢を取る。先発はオーソドックスな右腕斎藤謙心(3年)が登板し試合が始まる。

 序盤は浦和実業ペースで進む。

 まず初回、浦和実業は春日部共栄・齊藤の立ち上がりを攻め立て、一死から2番・松村裕大(2年)がセンター前ヒットで出塁すると、続く長谷川俊大(3年)の所で浦和実業ベンチはエンドランを仕掛ける。これが見事に決まり、長谷川がライト前ヒットを放ち一死一、三塁とチャンスを広げると、4番・竹内琉生(3年)の打球はボテボテの内野ゴロとなり併殺崩れで幸先良く1点を先制する。

 春日部共栄もその裏、豆田の立ち上がりを攻め、先頭の黒川渓(3年)がレフト前ヒットを放つと初球で二盗を決める。春日部共栄がお得意の速攻を見せると、続く木村大悟(3年)のセカンドゴロの間に黒川は三塁へ進む。だが、3番・平尾(2年)はファーストライナーで凡退すると、続く村田も三振に倒れこの回は無得点で終わる。

 立ち上がり浦和実業バッテリーは様子を見ていたように見えた。相手も対策を立ててくるであろうということを踏まえ、そこまでインコース攻めをするでもなくバランスよく攻めていた。実際平尾の打球はインコースのストレートを完璧に捉えられた紙一重の打球であり、その印象は強く持ったであろう。


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黒川渓(春日部共栄)

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 浦和実業は2回表にも一死から7番・遠藤光一郎(3年)がセンター前ヒットを放ち出塁すると、二死後9番・吉田浩隆(2年)もライト前ヒットを放ち二死一、二塁とチャンスを広げる。ここで1番・秋山英日(3年)がライト線へポトリと落ちるタイムリー二塁打を放ち2対0とする。さらに続く松村も四球を選び二死満塁とチャンスを広げるが、後続が倒れ1点でこの回の攻撃を終了する。

 2回以降浦和実業バッテリーはインコースへのボールを増やし始める。すると、その影響もあったか春日部共栄打線は徐々に豆田の投球に圧倒され始める。3,4回は春日部共栄の上位から三者連続三振を奪うなど、これまでベスト8、ベスト4の2試合同様に豆田の投球はエンジン全開となる。

 浦和実業は5回表にも2番手・三枝を攻め、この回先頭の長谷川がレフト前ヒットを放ち出塁すると、続く竹内がきっちりと送り一死二塁とする。二死後6番・後藤大成(3年)がセンター前タイムリーを放ち浦和実業が3点差をつける。

 だが、これまで豆田の前に1安打に抑えられていた春日部共栄もその裏反撃を開始する。この回先頭の平岡が四球で出塁すると、続く片平進(3年)がきっちりと送り一死二塁とする。二死後、ピッチャー三枝翔(2年)に打順が回り、春日部共栄ベンチは左の舘重憲(3年)を代打に送る。

 ここはこの試合最初の山であった。浦和実業バッテリーはピンチであり左打者を迎え、当然インコース中心の配球となる。舘を追い込むがファールで粘られ、バッテリーは勝負球に外の変化球を選択する。だが、これが間違いであった。案の定舘はそのボールを拾いセンター前へタイムリーを放ち1点を返す。

 この辺りから試合の潮目が変わり始める。

 息を吹き返した春日部共栄は舘の代走・石川がすぐに二盗を決め二死二塁とすると、1番・黒川がセンター越えのタイムリー三塁打を放ち3対2とし前半を終了する。

 それでも、浦和実業は6回表、前日完投し連投となる3番手・武藤瑛徳(3年)を攻め、この回先頭の豆田がレフト越えの二塁打を放ち出塁する。だが、続く吉田はバントの構えからストライクボールを見送ると、二走・豆田が飛び出し挟殺される。それでも吉田がレフト前ヒットを放ち再度チャンスメイクすると、続く秋山もライト前ヒットを放ち一死一、三塁とチャンスを広げる。先程ミスをしている浦和実業サイドとすれば、ここは最低1点欲しい場面だ。当然2番・松村の所でセーフティスクイズを仕掛ける。打球はピッチャー前ではあったが高く跳ね上がり決まったかと思われた。だが、三走・吉田のスタートが悪く本塁封殺されてしまう。このまま無得点で終わると試合の流れは完全に春日部共栄に傾く。そんな中、二死一、二塁から3番・長谷川がレフト前タイムリーを放つと、送球間にそれぞれ進塁し二死二、三塁とする。ここで続く竹内もライト前へタイムリーを放つ。二走・長谷川の本塁突入タイミングは微妙であったが、ここで打者走者竹内が大きく一塁を離塁し引き付ける頭脳プレーを見せる。すると、キャッチャー石崎はこれにつられ本塁へ突入した走者にタッチをせず竹内を狙ってしまう。本塁はセーフとなり浦和実業が6対2とする。

 そろそろ昨秋同様、豆田から三田へ継投するかと思われたが、浦和実業ベンチは6回も豆田を続投させる。

 すると、春日部共栄は6回裏、ついに豆田を捉える。一死後4番・村田が四球を選び出塁すると、続く石崎聖太郎(3年)もセンター前ヒットを放ち一死一、二塁とチャンスを広げる。二死後7番・片平を迎える。対する豆田はインコースを狙うがそのボールが甘く入る。片平は失投を逃さず捉えると打球はレフトスタンドへ飛び込む3ラン本塁打となり春日部共栄が一気に1点差に迫る。

 これで試合の流れは完全に春日部共栄へ傾く。

 春日部共栄はさらに8番・丸田輝(3年)のショートライナーを放つと相手がそれを弾き出塁すると、すぐさま二盗を決め二死二塁とする。ここで春日部共栄ベンチは代打に森飛翼(3年)を送る。豆田はもう投げる球がなくなり四球を与え二死一、二塁となった所でマウンドをエース三田へ譲る。三田は続く黒川も歩かせ二死満塁となるが後続は抑えこの回は何とか1点差のまま乗り切る。

 だが、両チーム勢いの差は明白であり、あとはもう時間の問題であった。


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サヨナラに喜ぶ春日部共栄の選手たち

 そして、春日部共栄は7回から満を持してエース村田が登板する。村田は浦和実業打線を圧倒し3回1安打無失点に抑え味方の反撃を待つ。

 春日部共栄は7回裏、この回先頭の平尾がセンター前ヒットを放ち出塁すると、すぐさま二盗を決め無死二塁とする。二死後、6番・平岡大典(3年)がライト前タイムリーを放ち6対6の同点とする。

 そして迎えた最終回、この回先頭の村田がライト越えの二塁打を放ち無死二塁とすると、続く石崎は初球バントの構えで様子を見る。相手は当然シフトを敷く。これは石崎が送って浦和実は満塁策を取るかと思われたが、試合はあっけなく終わる。ベンチは石崎に強攻の指示を出すと、石崎は期待に応え右中間へサヨナラタイムリーを放つ。最後は春日部共栄が劇的な形で決め、優勝を飾った。

 まずは浦和実業だが、投手陣を出し惜しみせず勝ちに行った。この日は常にリードを保った形で優位に試合を進めていたが、中盤以降は防戦一方となり最後に逆転を許す悔しい敗戦となってしまった。とにかくこの試合は敗因として2点、代打・舘の所での配球と豆田の継投タイミングが挙げられる。豆田はこれまでの試合同様にこの日も良く投げていた。だが、連投の影響もあったか中盤以降は制球が甘くなった。また、継投に関してはエース三田が昨秋と比べMAXで3,4km遅い現状を見ても、豆田をできるだけ引っ張りたくなる気持ちも理解でき非常に難しい所だ。豆田は吉田輝星を彷彿とさせる下半身主導のフォームであり、連投は苦にしないタイプだが、まだ2年生であり無理は禁物だ。まずは関東大会へ向け十分な休養が必要であろう。また、この日4盗塁を許したキャッチャー竹内だが、本来は強肩でありこういうことは考えにくい。このあたりは打撃面も含め昌平戦で怪我をした足の影響が出ている印象を受けた。彼もまずは関東大会まで怪我を治すことに専念すべきではなかろうか。

 一方の春日部共栄だが、大会序盤は打線の調子が上がらず不安視されていたが、きっちりと決勝戦に標準を合わせてくるあたりはさすがの一言だ。2度目の対戦とはいえ、昨秋からパワーアップした豆田に対してもきっちりと攻略してみせた。ただ、投手陣は今大会もエース村田をメインで使ってしまった。もちろん、準決勝で好投した武藤など収穫はあったが、夏の大会序盤で登板させるだけの信頼を得たかというと何とも言い難い。できれば今大会序盤は村田以外の投手を使いたかった所であろう。今大会使う場面はもっとあっただけにこの影響が夏どう出るか。花咲徳栄浦和学院が昨秋に続き早期敗退するなど波乱の今大会であったが、最後は昨秋に続き春日部共栄が物にした。いずれにせよ、彼らが夏も主役であることは改めて疑いの余地もない所である。関東大会初戦は栃木工業との対戦が決まったが、春日部共栄は地元開催の優勝校として、もうひと暴れを期待したい。

(記事:南 英博

 

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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