北山vs中部農林
北山エース平良拳太郎
全日本少年春季軟式野球大会ベスト4ナインが描くRoad to SENBATSUへの道
中学生にも全国選抜高校野球大会のような”春の甲子園を”という形で生まれたのが全日本少年春季軟式野球大会。各代表にはクラブチームの参加も認めるのが全日本少年軟式野球大会。その記念すべき第1回大会で本島北部の今帰仁中学校野球部だけで参加し、ベスト4の偉業を達成したのが平良拳太郎や仲里正作ら。
だが彼らの野望はそこで留まらなかった。気心知れた同僚と共に高校野球のステージへ挑戦し、沖縄のてっぺんを奪っての甲子園出場の夢を本気で狙ってきたのだ。その陣頭指揮を執るのが神谷善隆監督。ナインと歩みを共にし、北山高校の監督へ就任。一歩一歩だが、しかし着実に階段を上ってきた。
2011、12年と連続して新人中央大会へ出場。2012年の春季県大会ではベスト16へ進出した。だが圧巻だったのは夏の選手権県大会。春2-6で敗れた古豪沖縄水産と再び対戦。同じ春季で浦添商を破りベスト4入りした沖縄水産が有利と周囲が見ていた中、5ー0と投打に圧勝。見事な下克上を成し遂げた北山ナインの、Road to SENBATSUへの道である秋季県大会1回戦が北谷公園野球場で開幕した。
イニングの頭に入ったら常に0ー0と思え
初回。中部農から二者連続三振を奪いナインの士気を高めた平良拳太郎。177cm60kmの細身のサイドスロー。だが技巧派ではなく、威力十分のキレっキレのストレートがインローやアウトローいっぱいに決まる。去った夏に沖縄水産を完封したあのキレ味が、秋に入ってさらに凄味を増したようだ。
その裏北山は理想的な運びで3点を先制する。一死満塁から5番宮城竜がジャストミートで捉える。グングン伸びた打球はレフトの頭上を越える2点タイムリー二塁打。さらに一死ニ・三塁とし続くマックスウェル・ジェリーがセンターへの犠飛。三塁走者が生還した。
2回にも相手のエラーなどで4点を加わえた北山は、4回裏も無死一・三塁から仲里樹がピッチャー返しのセンター前タイムリー!盗塁成功で二・三塁とし再び宮城竜がセンター前へ2点タイムリー(宮城竜は第二打席では押し出しの死球を選んでおりこの日5打点の活躍)。
無死二塁から犠打を成功させたあと、三塁走者がWPで生還しコールドを決定づける4点を加えた。
今日の北山は、勝利への安全パイとも思える得点を重ねても、手を緩めるどころか盗塁や犠打などで貪欲に先の塁、先の塁を目指していた。
北山・宮城はこの日の5打点の大暴れ!
北山・神谷善隆監督
「今日のテーマはイニングの頭に入ったら常に0ー0として望むことでした。また走塁に関してもキャッチャーへの投球がワンバンになると判断したら(アウトになっても良いから)行きなさいと指示してました。」
こう言うと語弊がありそうだが、2009年の春季県大会2回戦で敗れて以来、去った夏で11連敗中の北部農と今の北山とでは、力の差はいかんともしがたいほど離れている。だが北山ナインは相手を見下して試合をしたわけではなく、あくまでひとつのテーマに従っていた。結果セーフティとなった打席でも、サインはあくまで送りバント。だが(120kmには届いていないだろう)中部農先発・宮城奎のストレートに対し、自信を持ってライン際へ転がしたのだし、2回ニ死二塁から三盗を狙ってアウトになった場面も、過剰な意識から行ったのではなくキャッチャーの手前でワンバンしたから実行したのだ。
「セーフティになったのは殆どが送りバントのサインでした 」と神谷善隆監督が語った通り、ナイン全員が浮かれることなく貪欲に先の塁を目指していた。
さらにテーマはひとつだけでは無かった。先発の平良拳太郎のピッチングを見てすぐに感じたことが、”あえて封印しているな”という直感。夏沖縄水産を苦しめたシュートがこの日は見られなかったし、多用し過ぎるくらいストレートで押していた。
北山・平良拳太郎投手
「 シュートは今日1球だけ投げました。(新人中央大会で)沖縄尚学に負けて以来、(このままじゃいけないと)色々と試してきました。」
口数が少ないシャイなエースは多くを語らなかったが、試したかったことをこの試合で少なからず出せたようだ。2回戦で当たる次の南風原戦が、平良拳太郎と北山ナインにとってこの秋の本番なのだろう。
一方敗れて12連敗となってしまった中部農だが、4回の表に4、5番の連続センター前ヒットや、得点とすることは叶わなかったがその後のニ死一・三塁とした場面に、少なからず彼らの意地を垣間見れたことは良かったのではないだろうか。
さらに高校野球では規定により女子の選手登録は禁止されているが、中部農では試合前のシートノックでノッカー役としてユニフォームに身を包んだ女子部員が登場する。
華奢な体を目一杯使って外野まで運び、最後にはキャッチャーフライまで見せてくれた。(当たり前だが試合相手の打球と比べると酷)そんな彼女のノックを、真剣な顔付きでグラブに収めていく中部農ナインの温かさを、まるで肌で感じることが出来たと思えることも、僕にとっては高校野球の醍醐味のひとつでもある。
(文=當山雅通)
中部農林 | TEAM | 北山 | ||
守備位置 | 氏名 | 打順 | 守備位置 | 氏名 |
左翼 | 泉 俊輔 | 1番 | 捕手 | 仲里正作 |
二塁 | 喜納大河 | 2番 | 遊撃 | 仲地 航 |
三塁 | 大城春樹 | 3番 | 三塁 | 神谷 塁 |
遊撃 | 仲泊兼矢 | 4番 | 一塁 | 仲里 樹 |
右翼 | 識名悠貴 | 5番 | 左翼 | 宮城竜平 |
投手 | 永宮城奎司 | 6番 | 中堅 | マックスウェル |
捕手 | 古谷悠斗 | 7番 | 投手 | 平良拳太郎 |
一塁 | 名嘉佑太 | 8番 | 右翼 | 小浜百顕 |
中堅 | 比嘉洸弥 | 9番 | 二塁 | 松本秀利 |