錦江湾vs与論
持っている力を出し切れず
1回に3番上野宏汰のライト前タイムリーとエラー、暴投で3点を先制。3回にも3連打などで3点を加えて序盤で主導権を握った。
4回をのぞいて毎回走者を背負ったが、先発の平岩亮太(3年)、2番手の杉元元貴(2年)の2人で要所を締めて完封した。
「『ザ・島の子』って感じです。バネがあって手先が器用。加えてタフ」と与論・内村文彦監督はエースで3番の髙貴志(3年)絶賛する。
それだけに「自分の持っているものに自信をつけさせてやれないままで、終わってしまったのが残念」と唇をかんだ。
昨夏以来1年ぶりとなる[stadium]県立鴨池[/stadium]での試合だった。
1年生9人が入ったことでようやく試合に出られるようになり、6月の地区大会では、延長14回で大島北に競り勝った。
「無四球で勝てたことが自信になった」と髙は振り返る。
だが髙は、先頭打者に四球を出したことで、自信に「狂い」が生じた。初戦の緊張感、周囲の期待に応えたいというプレッシャー…かけていた想いが空回りして、「地に足をつけた野球」(内村監督)ができなくなる諸条件に飲み込まれた。3回で6失点、跳ね返すには重い点差だった。
気がつけば終わっていた試合の中でも、やってきたことを出せた場面はあった。チームで8安打放った。
「『当てる』打撃じゃない。ファーストストライクからしっかり振り切って相手の外野を下がらせる打撃」という内村監督の教えを実践できた。髙は4回からの投球では勢いのある直球と、抜いた変化球のコンビネーションなど、「持っている力」の片鱗はみせることができた。
1年生が入ってくるまでは2、3年生5人だけだったが「少人数だからこそできる練習」(髙)を心掛けてやってきた。少人数でもひたむきに野球に取り組む姿を、学校や島の人たちは惜しみなく応援してくれた。
「テレビに映るのを楽しみにしているよ」。そう言って送り出してくれた島の人の期待に応えられなかったことに髙は涙が出た。だが「3年生4人と精一杯のことをやったから悔いはない」。涙を振り払ってそう言い切った。
(文=政純一郎)