Column

「慶應のやり方がいいとかじゃなく、野球界の今までの常識を疑ってかかってほしい」——元慶應高監督・上田誠さん【新連載『新しい高校野球のかたち』を考えるvol.1】

2024.04.17


連載開始にあたって筆者より

今、子どもたちがやりたいスポーツの中で、野球を選択しない子が増えてきました。数字として如実に表れているのが、野球の競技者人口の減少です。
日本野球競技会による野球普及振興活動状況調査によると、高校硬式の選手登録者数は、2010年は168,448名だったのが、2022年には、131,259名とおよそ3万人減少。
また、野球界全体では、1,617,431名から、1,017,584名と、およそ60万人がこの12年ほどで減少しています。この事実に警鐘を鳴らして、野球界の多くの大人たちが動き始めました。

これまでのような、監督が絶対的な存在のチームのままでいいのか?勝利至上主義のままでいいのか?もっと子どもたちが楽しいと思うような野球を伝えなくてはいけないのか?と。

そのままでもいいという意見を持った人と、何か変えなければという思いを持った人がいます。両方の思いを持った人もいます。
その中で、アンテナを張った指導者たちが、少しずつ、少しずつ、手探りではありながらも、動き始めている地域があります。でも、大きなうねりはまだ生まれていません。

そんな中で、これまで全国各地、そして海外も含めて、多くのチームや選手をみてきた私たち『高校野球ドットコム編集部』においても、改めて問いてみたいと思います。

野球とは、だれのためのスポーツなのか?
そもそも、スポーツとは、だれのためのスポーツなのか?
だれが、だれの人生の時間をつかって、プレーしているのか?ということを。

今回、「新しい高校野球のかたちを考える」の連載を開始するにあたり、あらゆる野球関係者の率直な思いを伝えていきます。みなさんにも、新しい野球、ひいては新しい日本のスポーツのあり方について、考える時間を少しでも持っていただけたら嬉しく思います。

慶應義塾高校を25年指導・上田誠元監督

2023年8月。上田誠さんが1991年から2015年まで25年間指揮を執った慶應義塾高校が、甲子園で107年ぶりの優勝を果たした。上田さんは、おだやかな表情でこう語る。

「まぁ、あまり慶應義塾を手本にしろとはいえませんね。エンジョイベースボールという精神的な支柱はありますが、大学も近くにあり環境にも恵まれていて、力のある選手が慶應義塾を選び受験してくれる。だから、ほかのチームからしたら、『慶應義塾みたいなことはできないよ』って感じると思います。だけど、あの優勝によって、全国の指導者に対して、“いいきっかけ”は与えられたかなとは思いますね。もう一度、指導法を考えてみたらどうですか?というきっかけを。もちろん、すぐに選手に任せて、『さぁ自分たちでやってみろ』というのはできないでしょうが、『今日はお前らでやってみろ』とか、そんな日を作ることから始めてみても面白いかなと思いますけどね」

上田さんといえば、慶應義塾高校の「エンジョイ・ベースボール」の精神を継ぎ、その基盤を築いてきた指導者として知られているが、当時を振り返ると、
「ぼくの教え子たちから言わせれば、全然エンジョイじゃねえよって言われそうですけどね。1990年代なんて、けっこう厳しい面もあったので」と笑う。
「だけど、だんだんとこれはやってはいけないなと考えながら指導も変えてきました。ぼくの大学時代の恩師・前田祐吉さんから教わったエンジョイ・ベースボールの考えは、今も自分の中で強く残っています」

次のページ:指導者ほど、これまでの野球界の常識を疑ってほしい

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この記事の執筆者: 安田 未由

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