Interview

メジャーリーガーから絶大の信頼を得る企業が越谷に 世界から愛される防具を作り出す職人・永井和人さん(ベルガードファクトリージャパン株式会社 社長)

2023.03.18

 ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、世界中の野球ファンが大いに盛り上がった。大会では各国がオールスターチームを編成し、世界一の称号をかけて激突したが、この大会に向けて大忙しで準備していた人が、埼玉県越谷市にいた。

世界中から認められる一級品の防具が越谷に

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ベルガードファクトリージャパン株式会社・永井和人社長

 ベルガードファクトリージャパン株式会社で社長を務める永井和人さん。2012年6月から会社が始まり、2023年で12年目になる会社のかじ取りをしている元球児である。取材日は来るWBCに向けて、防具の準備をしていたが、渡しているのは日本人選手ではなく、キューバ、ドミニカなど外国人選手に向けても、商品を準備していた。

 実は、会社立ち上げ時からメジャーリーガーへ防具を送り続けている。メジャーで活躍する、大谷選手と争った2021年の本塁打王、ブルージェイズのウラジーミル・ゲレーロJr.選手、同じく本塁打王、ロイヤルズのサルバドール・ペレス選手や2022年の首位打者ツインズのルイス・アラエス選手らが使っているとのことで、超一流の選手たちが認める一級品の防具なのだ。

 永井さんも「審判防具に関しては大手には負けないと思っている」と商品には自信を持っていたが、「思い描いていた以上に、会社は順調に成長している」と想像以上の成長に驚きを隠せていない。

 立ち上げ当初から多くの苦労があった。

 現在の会社は、一度倒産した会社を復活させたところから始まっている。永井さんは、その倒産した会社に勤務していた職人であり、営業マンだったが、会社の倒産を受けて、自身が社長となって、再スタートを切った。それがベルガードファクトリージャパン株式会社の始まりだった。

 倒産から再スタートするのに時間がかかり、前の会社が請け負っていた大手メーカーの仕事も無くなった。ファンからの「(ベルガードを)無くさないでほしい」という声が永井さんの心を支えていたが、現実はそう簡単ではなく、一から取引先を探していくところから始まった。

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ベルガードで販売されている防具

 強みだった審判防具からスタートさせ、少しずつ仕事を増やしていく。そうしていくうちに「恩人の1人です」という人物の付き合いが、会社に大きな影響を及ぼした。

 「イチローさんがマリナーズにいたときのトレーナーが知り合いでした。WBCのときに関係ができていたんですが、その人に当時、『日本の防具を使ってくれる選手がいないか』と聞いてもらったら、『何名かの選手が試したい』と使ってくれたことで、ベルガードが少しずつメジャーで広がって行きました。
そのトレーナーから『いろいろ作ってほしい』という話をもらったところから、始まりました」

 およそ数十年前、まだメジャーでは打者が防具を付けてプレーする文化がなかったこともあり、お試しで使ってみたところで「怪我を防げるし、かっこいいじゃないか」と反応が良く、チームで広がった。さらにFAやトレードで使っていた選手が、移籍し、それを見た選手が使いたいとオファーが来るようになり、メジャー全体に広がり人気に火がついていたのだ。

 自分の名前を入れたり、好きなカラーリングにカスタマイズできたりと、自分好みのデザインを作れるオーダーシステムもメジャーリーガーの心をつかむ要因になった。永井さんは「弊社の防具を使うと『また使いたい』とリピーターになってくれる」ということもあったと話す。

 そうした土壌がメジャーにあったことで、永井さんは再スタートをしてまもなく「やるようにアドバイスをもらって運用していた」という公式インスタグラムに、選手たちから直接問い合わせを受けて、徐々に防具も軌道に乗ってきた。

 メジャーで活躍していた外国人選手を筆頭にベルガードを愛用していたこともあり、NPBでも広がり、会社は少しずつ上向きになった。

[page_break:職人魂でメジャーリーガーの期待に応え続ける]

職人魂でメジャーリーガーの期待に応え続ける

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ベルガードで作ったキューバ代表の防具

 しかし防具である以上、ケガから身体を守る本来の機能をおろそかにしてはいけない。防具そのものの強さは「155キロのストレートが肘に当たっても、打撲で済んだ」というケースがあったそうで、問題はない。あとはいかにプレーに支障がないように使えるかだが、永井さんは自信を持っていた。

 「私は職人だったので、プロ選手と話すとき、あまり具体的な話ができなくても、何となくイメージが湧くんです。選手によって打ち方だったり、保護したい場所が違ったりするので、話し合って即決できるのは弊社の良いところだと思うんです」

 職人目線で選手と話し合って、機能性も高い防具を作れることも選手たちには人気を博しているようだ。しかも「極端な話、『明日欲しい』と言われても、何とかできる」とスピード感も強みとなっている。

 2023年はWBCが開催されることも相まって、多くの外国人選手からオファーを受けている。これまでも外国人選手が使ってくれたことで、注目をされることが多いそうで、大会終了後も大忙しの日々が続きそうだ。

 そんなベルガードは近年新たな機能として、テイコク製薬社の特許技術IFMC.(イフミック)という物質を織り込んで、防具を作っている。ナノレベルの集積機能性ミネラル結晶体で、それを使っているメジャーリーガーや多くのプロ選手の成績が好調のようだ。

 こうした努力と高い技術力が詰まった防具だが、プロ仕様という形で分けることはなく、一般の人も同じモデルが使えるという。アマチュア選手としては嬉しい話だ。「ぜひ試してほしい」と永井さんも、高校球児たちに使ってほしいと強く願っていた。

 越谷から世界へ。「(モノづくりへのこだわりは)ブレずに今後もやっていきたい」とこれからも高い品質の防具を届けることを誓った。

 「人と人との繋がりに感謝し ジャパンテクノロジーを世界へ」

 このベルガードの経営理念は、まさに永井さんが会社を立ち直すために、実践し続けたことであり、職人魂の象徴と言っていいだろう。ベルガードはこの理念があり続ける限り、全世界の野球人からも愛され、メジャーリーガーを含めた野球選手の身体を守り続ける。

(取材:田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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