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NPBと変わらぬ練習スタイル 名門・報徳学園が築き上げた新たな投手育成【前編】

2023.01.23

NPBと変わらぬ練習スタイル 名門・報徳学園が築き上げた新たな投手育成【前編】 | 高校野球ドットコム
報徳学園ナイン

 昨年秋の近畿大会の決勝戦で熱戦を見せたことで、2023年の高校野球を牽引していく期待が膨らんでいる報徳学園(兵庫)。全国有数の強豪校として、聖地・甲子園でいくつもの名勝負を見せ、プロ野球選手も多数輩出している。

 最後に甲子園出場を果たしたのは2018年夏。広島・小園 海斗内野手を擁して、ベスト8まで勝ち上がったのを最後に、甲子園から離れている。近畿大会準優勝で2023年のセンバツ出場の可能性が高く、5年ぶりの聖地出場が期待されている。

 5年の月日が流れた間、チーム運営にテコ入れを行い、野手陣のレベルアップに努めてきたが、投手陣ももちろん同じだった。

変革は4年前。悔しさが原動力となった

 「3、4年くらいまではランメニューが中心でしたけど、今は頻度を減らして、トレーニングメニューを増やすようにしました」

 投手を中心に指導する礒野部長の言う通り、取材日はランメニューと呼べそうだったのは短距離のシャトルランくらい。それ以外は、トレーニングメニューという構成で、トレーニングに力を注いでいることがよくわかる。

 目的ごとにいくつかのメニューが記載され、何を目的に練習するのか、一目でわかるようになっていた。それが1週間のスパンでまとめられ、他ではあまり見ない先進的な取り組みだった。

 野手同様にいくつかのチームに分かれ、限られたスペースでも全員が効率的に練習できるのは投手も同じだった。しかし3、4年前に転機が訪れた。

 「小園たちの世代が終わって、次の世代は林(直人)をはじめ良い投手が揃っていたんです。ただ、選手たちの実力を伸ばしきることができなかったんです。それが悔しくて、1学年後輩からメニューを一新したんです」

 2018年の夏の甲子園で登板した林をはじめとした世代は、秋こそ近畿大会まで進んだが、春は地区予選敗退。夏の大会も3回戦で加古川西の前に敗れている。選手の能力だけではなく、戦績面でも悔しい結果に終わった。

 この現状を打破するために、礒野部長も投手陣の育成に着手したのだ。

トレーニング重視に確かな手ごたえ

 野手同様に、投手もチーム編成を採用。これには「チーム全体の方針で効率化を図ろう」と考えていた大角監督もすぐに同意した。そのうえで礒野部長はまずトレーニング、特に下半身や体幹強化をメインにしたメニューを組むことで、選手たちのフィジカルを鍛えるなど、以下の3つを大事にして投手育成を始めた。

1.筋肥大を目的にする時期にはランニングを禁止し、トレーニングと技術練習のみを行う時期を設定している。
2.トレーニングと並行してキャッチボール、遠投を約1時間かけて重点的に行っている。
3.週間予定と月毎のテーマ、練習計画をあらかじめ提示し、目的意識を高める工夫をしている。

 2018年までメインだったランニングは、「シーズンによって中身や練習量を変えました」とランニングはするものの、ひたすら走ることをやめた。特に1月はランニング禁止月間で、完全にトレーニングと技術練習に振り切るほど、走ることばかりではなく体を鍛えることにも力を注ぐようになった。

 特にトレーニングに対しては、指揮官の大角監督も重要視するポイントに挙げている。

 「投手と野手、それぞれでトレーニングの中身が違うと思っていますので、アップから別メニューを組みます。投手には体づくりを徹底させるために、アップからトレーニング、体づくりへの意識づけをさせて、自身の体と向き合うようにさせました」

 球速をはじめとした多くの要素で数字が出せる分、トレーニングといった練習内容が数字という形で結果が出る。その分、成果がわかりやすく、「練習は嘘をつかない」というのを実感できる。

 そうした意味でも重要視されるトレーニングと並行して取り組むキャッチボールや遠投も1年間通じて育成する上で、礒野部長はポイントにしている。

 「特にシーズンに入ると、試合で登板する投手は絞られるので、その投手たちの1週間は何となく決まります。
 試合でベストな状態で投げてほしいので、試合2日前からノースローです。やってもキャッチボール程度にします。その代わりに週の半ばで実践練習やブルペンで調整を済ませるようにして、平日の練習で疲労を溜めないようにします」

 マウンドを使って投げることが少ないからこそ、キャッチボールでフォームやリリースの感覚を確かめる。距離によっても目的が変わってくることもあるため、「勝手に時間がかかる」とあっという間に1時間かかるのだ。

 主力投手たちはNPBの先発投手さながらの調整スケジュールだが、「それと同じようにしています」と意識的にスケジュールを組んでいる。対して控え投手たちはベンチ入りするために、平日にベストコンディションを作らせる。それで主力野手を抑えることで、アピールをするように仕組みを作っている。

 これらすべてが月ごとで決まる1ヵ月の目標に沿って1週間のメニューが毎回決まり、選手たちへ細かく明示される。これが礒野部長の確立した投手育成だ。

(記事=田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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