前後屈動作で腰に痛みが出るとき
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
新しい年を迎え、新学期も始まりましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。2023年も多くの高校野球選手、指導者・保護者の皆さん、高校野球を支え、楽しむ多くの皆さんに少しでも役立つ情報を発信していきたいと思います。本年もどうぞよろしくお願いいたします。さて新年最初のセルフコンディショニングコラムは「前屈」「後屈」動作で腰が痛いと感じるときに、見直したい体のコンディションについてお話をしたいと思います。
前屈動作と腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニア
野球は中腰の姿勢を維持するような動きが多くある
成長期の野球選手に見られる腰痛の一つに腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニアがあります。首からお尻にかけての脊椎(せきつい:背骨のこと)には、椎骨(ついこつ)という骨が積み重なっているのですが、椎骨と椎骨の間にはクッションの役割を果たす椎間板が存在します。腰椎椎間板ヘルニアとは、腰部にある椎間板の一部が何らかの原因で飛び出し、神経やその周辺組織を圧迫してさまざまな症状を引き起こすものです。
野球選手が腰椎椎間板ヘルニアになる原因はさまざまですが、その多くは椎間板に圧力がかかるような体の使い方(たとえば中腰姿勢で背中を丸めてしまう)や、体力レベルを超えた練習量や練習強度によるもの、体を支える下肢、臀部などを含めた柔軟性の問題、背筋と腹筋との筋力差などコンディショニングに起因するものが多く考えられます。特に腰椎は脊椎の土台部分であり、頭部や体幹部、腕などの重みがかかるため、腰の椎間板に大きな負担がかかりやすいと考えられます。またヘルニアの場所や程度によっては腰の痛みとともに坐骨神経に伴うしびれや脱力感、筋力低下などが見られることもあります。腰椎椎間板ヘルニアは、前屈動作で痛みが強くなることが多く、「腰を曲げられない」「中腰姿勢を保つことができない」といったことや、ひねりなどの回旋動作によっても腰痛が起こります。
前屈しにくいときには「裏面」をほぐす・伸ばす
長引く腰痛や強い痛みが続く場合は必ず医療機関を受診し、骨や関節等に問題がないかを確認してもらうことが大切です。その上で、選手自身ができることについて考えてみましょう。腰痛の多くは筋疲労がその一因として挙げられます。練習後にストレッチ等を行ってセルフコンディショニングを行っていても、練習量や強度によっては体の回復が追いつかずにどんどん疲労がたまってしまうという状態です。前屈をしにくい、もしくは前屈をすると腰や背中に痛みを感じるときは、体の「裏面」が硬くなっている可能性があるので、この部分を重点的にケアしてみましょう。
《ストレッチポールやテニスボールなどを用いて》
・背中や、お尻、太もも裏(ハムストリングス)、ふくらはぎ後面(下腿三頭筋)などを軽くほぐす
・太ももの側面(大腿筋膜張筋)を痛くない程度にほぐす
《ストレッチを行いたい部位》
・腰背部全体(脊柱起立筋、広背筋等)
・お尻周辺部、特に梨状筋を中心に
・ハムストリングス(ジャックナイフストレッチ等)
・ふくらはぎ後面(下腿三頭筋)
参考ページ)腰痛対策のコンディショニング(1)
後屈動作と腰椎分離症
腰を反らせにくいときは腸腰筋のストレッチを行ってみよう
腰椎分離症も野球選手にはよく見られるケガの一つです。これは高校生になってからというよりも、小・中学生時代に病院で「腰椎分離症」と診断されたケースが多いのではないでしょうか。子どもの体は大人に比べていろんな組織が未発達であり、骨も外力に弱いことが知られています。この時期に体力レベルを超えた練習を毎日のように続けたり、反復動作を繰り返したりすると、腰椎の後方部分に大きなストレスがかかり続け、やがて腰椎に亀裂が生じて疲労骨折=腰椎分離症(もしくは、すべり症)を起こします。繰り返される外力によって疲労骨折に至るまでにはある程度時間がかかるものですが、腰痛を感じながらもプレーを続けているとこうした腰椎分離症を発症しやすくなるといえるでしょう。
腰椎分離症を経験したことのある選手は「腰を反らせる動作」=後屈がしにくい、もしくは後屈で痛みが出る傾向が見られます。また腰椎の疲労骨折や腰椎のずれが起こることで椎間板ヘルニアのように神経症状(しびれ感、脱力感、筋力低下等)を伴うこともあります。「腰は痛いけどプレーはできるから」といって続けていると、腰痛の悪化につながることもありますので、医療機関を受診した上で、体の専門家(トレーナーや治療院の先生など)とも相談しながらコンディションを整えることが大切です。
腰を反らせにくいときは「前面」をほぐす・伸ばす
腰椎分離症を指摘されたことのある選手の特徴として、いわゆる「体が硬い」こと、特に体の前面が硬いことが挙げられます。体の前面部を中心に柔軟性を改善させると、自然と体を反らせやすくなり、痛みも軽減することが期待できます。ベンチプレスなどで大胸筋を中心に鍛え、その後にストレッチ等のケアを怠っていると、それが遠因となって腰に負担がかかることなども考えられますので、トレーニングとストレッチはセットで考えるようにすると良いでしょう。後屈時に動きがわるい、もしくは痛みを伴う場合はまず体の「前面」に着目してセルフコンディショニングを実践していきます。
《ストレッチポールやテニスボールなどを用いて》
・大胸筋の付け根、お腹部分を軽くほぐす
・太ももの前側(大腿四頭筋)、股関節の付け根(腸腰筋等)
・太ももの側面(大腿筋膜張筋)を痛くない程度にほぐす
《ストレッチを行いたい部位》
・大胸筋や三角筋の特に前面部
・腹直筋を中心としたお腹周り(胸郭部分も含めて)
・股関節の付け根(腸腰筋)は特に入念に
・太ももの前側(大腿四頭筋)
前屈がしにくいと感じたときは、体の「裏面」をチェックする、後屈がしにくいときは体の「前面」をチェックする、といったことが普段から意識できるようになると、自分自身でよりよいコンディションを保つことにもつながります。腰に不安のある選手は特に疲労をためこまないよう、日頃からセルフコンディショニングを実践するようにしてみてくださいね。
【前後屈動作で腰に痛みが出るとき】
●野球選手の腰痛には「腰椎椎間板ヘルニア」「腰椎分離症」などがある
●腰椎椎間板ヘルニアは中腰の姿勢で背中を丸める等、椎間板を圧迫する動作によって起こる
●前屈動作がしにくい場合は、体の「裏面」をチェックすることが大切
●腰椎分離症は小中学生時代からの腰椎への負担が一因となって起こりやすい
●腰椎分離症を指摘された選手の多くは、体が硬い傾向にある
●体を反らせる動作ができないときは、体の「前面」からアプローチしてみよう