試合レポート

國學院久我山vs川越東

2022.05.09

川越東が、センバツベスト4の國學院久我山を迎えての試合

國學院久我山vs川越東 | 高校野球ドットコム
1試合目では2回こそ崩れたものの、完投した國學院久我山・成田君

 <交流試合:國學院久我山6-5川越東(9回サヨナラ)、國學院久我山7-3川越東>◇8日◇川越東高校グラウンド

 昨秋の東京都大会では、劇的な逆転サヨナラで優勝を果たし第94回選抜高校野球大会出場を引き寄せた國學院久我山。センバツでも初戦で有田工(佐賀)を下して初勝利を飾ると、高知星稜(石川)と甲子園でも名だたる強豪を立て続けに下していった。優勝した大阪桐蔭には力負けしたものの、その躍進ぶりは光った。

 その國學院久我山を迎えた川越東(埼玉)。県内では進学実績も高い人気の私学男子校である。野球部からも東大合格者を輩出するなどの実績もある。昨秋の県大会はベスト8まで進出している。今年は新入部員が44人で3年生の46人、2年生の43人と合わせて133人という大所帯となった。おそらく、埼玉県内でも最多ではないだろうかと思われる。県内では、いわゆる3強と呼ばれている浦和学院花咲徳栄春日部共栄を追いかける次の勢力とも言える。ことに、西部地区ではこの春も準優勝した山村学園聖望学園星野山村国際狭山ヶ丘など、その位置づけの私立校が多い。

 川越東としては、その中から一つ抜け出したいところでもある。ラグビー部も強豪で花園出場など全国大会出場なども果たしている。ラグビー部の強豪といえば、國學院久我山川越東以上で、全国的な強豪校として花園の常連校でもある。野球部としては、そのラグビー部に負けるなという意識もあって、モチベーションが上がっていた。

 さらには、尾崎直輝監督が依頼して、選手たちが依頼の手紙を送ったことで、あのイチロー氏が指導に訪れた。そのことがスポーツ誌などにも報じられて話題になった。

 尾崎監督は、「イチローさんに来ていただいたから特別なことをするということではなく、あくまで、自分たちがやってきている中で不足しているところ、教えてほしいところを訪ねていくという形でした。そうした中で、走塁を一番のテーマとしていろいろ教えていただきました。その基本としては歩き方から、足のつき方、そして肩甲骨を上手に使って腕を振っていく走り方などが中心でした。そういった動きを最初は意識しながら、それを繰り返していくうちに、やがて意識しないでできるのが無意識の体の動きだということでした」など、一つひとつの小さな疑問から、その答えを見出していくことで、次にやって行くべきことが見つかったという。そして、いい歩き方、いい走り方をしていくためには、体幹をしっかりと鍛えていくことだということにたどり着く。そうすると、体幹トレーニングそのものにも意味が出てくるということに帰結していくのだ。そうした理詰めと実践が一体となっていく、充実した時間だったという。


國學院久我山vs川越東 | 高校野球ドットコム
川越東・伊藤匠海君

 そんな尾崎監督の話を聞いていると、今春の國學院久我山のベスト4進出は、イチロー氏から学んだことによるモチベーションの向上も含めて、ある程度は勝てるべくして勝てたということで、決して旋風でも何でもなかったということも言えるのではないか。そして、もっと言えば、尾崎監督が指導者となってから、日頃思っていた考え方とイチロー氏の教えには共通項が多く、尾崎監督としてはむしろ、「自分の指導方針の確認ができていった」ということで、選手たちに話していく一つひとつに対しても、自分でも自信を持てるようになっていったという。そうした要素も含めて、センバツの快進撃に繋がっていったのではないだろうか。

 そんな國學院久我山に対して、川越東の野中祐之監督は、「今の自分たちの力でどこまで戦えるのかということを試してみたということもあって、とても楽しみだった」と言う。

 試合は、2試合とも競り合う展開になって、見ごたえもあった。

 國學院久我山成田陸投手(3年)が完投した1試合目は、2回だけ成田が乱れ、そこを突いた川越東が7番福島惇也外野手(3年)のバント安打など6連打を含めて、打者11人で5点を奪った。成田としては、連打されていったときに、どう止めていかれるのかというところは一つの課題にもなった。

 それでも、「粘れることだけは、チームとしての持ち味」だというという國學院久我山は、コツコツと返していく。そして、9回にこの回から登板した伊藤匠海投手(3年)に対して、安打と死球に盗塁などで2死二、三塁として、最後は代打大野良太外野手(3年)が三遊間を破り昨秋の都大会決勝を彷彿させるような、2者をかえす逆転サヨナラとなった。

 形としては、逆転サヨナラ負けとなった川越東だったが、野中監督は様々な形で満足していた。というのも、最後に打たれた伊藤はエースとして期待している好素材なのだが、血行障害を患っていて、春季大会はベンチにも入っていなかった。それでも、じっくりと治療して完治して、1イニングずつ少しずつ投げて行っているということだ。この試合は、今春2イニング目。野中監督は、「投げられただけでも良かった。徐々に長く投げられるようにしながら、夏を目指していく」という考え方だ。

 また、2番手として投げた津村佳典投手(2年)は昨秋にバドミントン部から転部してきた異色選手で、こうして試合で使って貰えるまでに成長した。そうした、選手の頑張りにも野中監督は目を細める。

 2試合目では、お互い1年生選手なども起用しながらの戦いとなったが、序盤は点の取り合いとなった。そして、6回に國學院久我山が本塁打、三塁打などの長打攻勢で、3点を奪って突き放していった。國學院久我山打線は、ここぞという時には強い打球を放っていく破壊力があるのはさすがだった。

 日本全国の各校で、それぞれがこうした戦いを積み重ねていきながら、これから約2カ月後の夏の本番を目指していくのである。

 また、そうした中でここから何をつかんでいくのか。あるいは、どのような学びをしていくのか。そのプロセスこそが、高校野球の意味と意義でもあり、また、見守る側の楽しみの一つでもある。

 そんなことも、再認識させてもらえた、いい雰囲気のいい試合だったと思えるものだった。

(記事:手束 仁

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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