試合レポート

浦和学院vs九州国際大付

2022.03.28

浦学・宮城vs九国・香西の好左腕対決は期待通りの熱戦に。2人の魅力を徹底分析

浦和学院vs九州国際大付 | 高校野球ドットコム
宮城 誇南

<第94回選抜高校野球大会:浦和学院6-3九州国際大付>◇28日◇準々決勝◇甲子園

 この試合は、ここまで今大会無失点の浦和学院(埼玉)のエース・宮城 誇南投手(3年)、2回戦で今大会屈指の強力打線・広島広陵(広島)相手に1失点(自責0)完投勝利を挙げた九州国際大付(福岡)の香西 一希投手(3年)の投げ合いと、両打線がこの2人をどう打ち崩すのかが注目された。

 浦和学院の宮城は、どうやって点を取ればいいのかと相手打線に思わせるぐらい安定している。制球力重視ながら135キロ前後の速球を両サイドに投げ分け、120キロ前半のスライダーを低めに集め、強打の九州国際大付打線を抑える。

 宮城の良さはコマンド力の高さだ。特に追い込んだ時に当たり前のようにアウトローに決める。このセンバツを見渡しても、宮城しかない。攻めはシンプルだが、いろいろやって甘い球を投げるよりも、シンプルでも、アウトローに高精度の直球とスライダーをしっかりと投げる方が打たれない。考える暇も与えないくらいテンポよく投げ、相手の間合いにさせない。持ち味を存分に発揮していた。

 宮城は強力な九州国際大付打線へ向けて、「今までの相手よりも失投を逃さず、甘く入った球はしっかり振ってくるので、気をつけていました」とベストボールを投げ込むことを選択した。

 一方、香西も魅力を発揮した。直球の球速は120キロ〜125キロ。130キロ超えが多いセンバツ出場投手の中でもひときわ遅い。ただ香西の投球は高めに浮かない。強豪校に打たれてしまう投手は球が高めに浮いて、振りやすいベルトゾーンに集まってしまう。香西の場合、低い軌道でミットに収まる。おそらく120キロ台でも回転数や、回転効率など球質の良いデータが算出される投手なのだろう。

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香西 一希

 125キロの直球で振り遅れの空振りを奪うなど、120キロ台で勝負できる投手はこういう投手のことをいうのだろう。

 さらに100キロ台のカーブ、110キロ台のスライダーを織り交ぜ、狙い球を絞らせない。駆け引きが優れ、打てる球がほとんどなかった。

 両投手が持ち味を発揮し、1対1で前半を折り返したが、6回裏、浦和学院は強打の2番・伊丹一博外野手(3年)のソロ本塁打で勝ち越し。さらに4番・鍋倉和弘内野手(3年)の適時打で3対1とした。8回表、九州国際大付がバッテリーミスと4番・佐倉 侠史朗内野手(2年)の適時打で3対3の同点としたが、8回裏、浦和学院は4番鍋倉の3ランで6対3とした。終盤こそ点の取り合いとなったが、それでも2人の評価が落ちることはない。

 試合には敗れたが、香西は自分の持ち味を発揮できたと振り返る。

「緩急を利かせた投球を実践すること。コントロール良く投げること。これは大会を通してできたと考えています」

 香西は全国的には珍しくない120キロ台の左腕投手。それでも高度な投球術をセンバツの舞台で表現したからこそ多くの人々に称賛されている。

「あまり体が大きくなくて、球が速くなくても、しっかり試合を作ることができるということは届けられたかなと思います。それでも試合の後半になると上体が前に突っ込んでしまってコントロールがうまくできてない部分が大会を通してあったので、しっかり体幹だったり、下半身の強さを練習して、また(甲子園に)戻ってきたいと思います」

 宮城の準決勝以降の快投、そして香西の大会後の快投を期待したい。

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浦和学院の超攻撃的野球 大会屈指の技巧派左腕相手にも炸裂 2本塁打4長打6得点でベスト4へ

浦和学院vs九州国際大付 | 高校野球ドットコム
伊丹 一博

1回戦 大分舞鶴戦 10安打 1本塁打4長打 4得点
2回戦 和歌山東戦 12安打 1本塁打4長打 7得点

 そして九州国際大付戦でも自慢の長打を発揮した。6回裏、2番・伊丹 一博外野手(3年)が左翼席へ本塁打を放つ。第1打席でも痛烈な右前安打を放っていたが、とても2番打者のポテンシャルではない。森大監督は大会前から伊丹のポテンシャルの高さを評価しており、3月10日の東海大菅生(東京)との練習試合でも伊丹の打撃を評価していた。2番に置く理由についてこう語る。

「伊丹は逆方向の打撃、長打、バントもできる。長打と繋ぎができる打者」と幅広い打撃ができる打者と高く評価をしている。

 伊丹も強打の2番打者像を描いている。

「一般的だと繋ぎだと思いますが、つなぎつつ、2番最強説ではないですが、長打力、持ち味を出すことが目的だと思います」

 本塁打の場面についても冷静に振り返る。

「監督からしっかりと振り切っていけといわれ、打ったのはまっすぐです。振り切ることができてファウルになりそうですが、飛距離は十分だったので、切れることが心配でした」

 これほど強打を発揮できるようになったのは冬場の体重増加がきっかけだ。睡眠や食事を意識し、5キロ増に成功していた。

 3番を打つ金田 優太内野手(3年)は3試合で12打数8安打の大活躍。バットコントロールが非常に長けており、どの試合もしっかりとコンタクトしている。森大監督からも信頼されている大型遊撃手だが、狙いが明確で、冷静に実行できる。

「相手はコントロールが良くて、緩急を使いますが、直球を打つことを狙うのを統一して狙いながら、変化球を突いていけたからだと思います。逆方向を狙うよりもセンターに強く引っ張るつもりでしたが、思った以上に直球が来ていることを共有したことが一番ですね。初打席から狙い球は速い球か遅い球かではなく、中間球を打つ。自分は追い込まれてから、直球よりも、中間球を張って、どっちも対応できるようにしました。こうした練習は普段の紅白戦や打撃練習から培ったものだと思います」

 2月に取材した時にも感じたが、とにかく冷静で、プレー全体に華があり、顔立ちも凛々しい。人気になって当然の選手だ。

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鍋倉 和弘

 鍋倉はようやく1発を放った。首脳陣からの期待も大きく、東海大菅生との練習試合ではあわや本塁打の大ファウルを打っていた。森監督も「あれが切れていなければ…」と残念がったように、とんでもない一打を打っていた。この冬は押し手である左手を上手く使えていなかったため、元プロの三浦 貴コーチや浦和学院ー上武大を経由して昨年4月からコーチとなった山本 勇介コーチからその使い方を学び、そして芯で捉えにくい木製バットを使いながら練習を行ってきた。

 この試合でもしっかりと修正しながら臨んだ。

「1、2打席目は変化球をミスショットしたので、入りは変化球だろうと共有して、しっかり打ちに行きました。本塁打の場面についてなミート力を意識した中で、振ったらマン振りになりました」

 また打てたのは、同僚の綿引健将投手(3年)のおかげと話す。
「(香西)似た投手がチームメイトがいたので、彼が練習で投げたり、宿舎でイメージ作りでシャドーをやっていたので、軌道を理解して打てたと思います」
と感謝を込め、森大監督も「プラカードをやった綿引 健将投手は香西投手とそっくりで、昨日も打撃投手をやってもらって。私は彼のことを「けんちゃん」というんですけど、「けんちゃんがしっかりやってくれたんだから、申し訳ないぞ」といって。ベンチ全員、スタンド全員で勝ち取った勝利だと思います」

 準々決勝では9安打2本塁打4長打6得点と強打を発揮した浦和学院。昨夏の日大山形戦の敗戦や優勝した智辯和歌山との試合を見たり、チーム全員で明治神宮大会の準決勝を観戦し、選手のパワーアップ、打撃力アップに時間をかけて取り組んできた成果がしっかりと実を結んでいる。

(記事:河嶋 宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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