敦賀気比vs三重
序盤の貯金で逃げ切った敦賀気比が14年以来の夏8強入り
本田 克(敦賀気比)
◆投手陣の出来にかかってくる
敦賀気比と三重ともに攻撃陣は活発だからこそ、投手陣の出来は試合展開に関わる。
敦賀気比は初戦・日本文理に追い上げに遭いながらも16安打8得点と強力打線で試合の主導権を掴んだ。投手陣に課題を残しながらではあったが、投打ともに実力のある選手の揃う強力なチームだ。
対する三重は、地方大会のチーム打率.510は出場校トップと打力をウリとして甲子園に来た。初戦の樟南戦は9安打2得点と実力を発揮しきれなかったが、エース・上山颯太の完封勝利で接戦を制してきた。
両チームの打線がしっかり機能すれば、乱打戦になる可能性も十分にある。そうなれば試合展開は読めず、計算がしにくい難しい試合になる。だからこそ、投手陣が計算できる試合を作れるかが、勝利へのゲームプランを立てる上で大切な要素だ。
◆強烈な先制攻撃で試合を決める
初回、敦賀気比先発・本田克は3番・品川侑生を四球で出したものの、無失点で立ちあがると、直後の攻撃で、猛攻撃を見せていく。
先頭の東鉄心の二塁打からチャンスを作ると、4番・上加世田頼希のタイムリーで2点が入る。
その後も三重の先発・上山颯太に襲い掛かり、打者11人で5得点と、これ以上ない先制攻撃で試合の主導権を握った。
さらに2回には2番手・辻亮輔から6番・小西奏思が6点目となるタイムリーで三重を突き放した。
6点リードをもらった敦賀気比・本田は139キロを計測する真っすぐを主体にカットボールやスライダーを混ぜて三重大会打率.510の強力打線・三重を翻弄する。
しかし辻の後に7回からマウンドに上がった谷公希に粘られ、敦賀気比はダメ押しが奪えない。
両チームの投手陣の投球で試合が落ち着くこととなり、膠着状態になるが、7回に守備のミス、8回は4番・池田彪我のホームランで3点を返された敦賀気比。前回の日本文理戦同様に追い上げにあったが、それ以上の失点を本田が許さず、6対3で敦賀気比が勝利した。
◆深澤鳳介に続くサイドハンド・本田克
敦賀気比打線は3回戦でも好調で、序盤の6得点など、9回11安打で試合を決めてベスト8進出となった。前回に続いての2桁安打と攻撃力の高さは全国区と証明されているだろう。
その攻撃陣を裏で支えているエース・本田の好投は勝利に近づくポイントだろう。
真っすぐはこの日最速139キロを計測する。これを基本としたうえで、緩急をつけた110キロ台のチェンジアップがある。そして注目したいのが、120キロ後半から130キロ前半を計測するカットボールの存在だ。
カットボールを変化球の主体として、本田は三重の打者にカウントを取るときもあれば、決め球に使っていた。このボールに苦戦を強いられている印象だったが、それもそのはずだ。
三重戦でストレートの平均球速は135キロを計測した。これより10キロ差がないくらいでカットボールが投げているのだ。バッターの目線では真っすぐに見えているのではないだろうか。
同じサイドスローで甲子園を通じてブレークした深沢鳳介は緩急と140キロ台の真っすぐでバッターと駆け引きをしている。そこと比較して考えても、高速変化球をメインとして使いこなすのは本田の武器であり、勝利に近づくものになった。
◆高速変化球を駆使して
この本田の投球には東監督も「初回を無失点で抑えた後に先取点を取ったことで相手が早打ちをしてくれましたし、ストライク先行でリズムよく投げてくれたので、攻撃もリズムよく入れたと思います」とエースの好投を高く評価した。
監督からの高い評価を受けた本田本人は、「序盤は三者凡退が作れずに流れをもって来られなかった」と対照的な自己採点だった。
ただ「カットボールで中盤空振りを取れたのは良かったです」と武器が通じたことに手ごたえを感じていた。では、高速変化球にあたるカットボールをなぜ使うのか。その狙いを聞かせてもらった。
「スライダーも上手く使いながらになりますが、右打者に対してならバットの芯を外す。左打者、特にインコースであれば詰まらせることが出来るのがカットボールだと思うので、そこに意図をもって投げています」
そして同じくサイドスローで活躍した深沢について、「テレビで見てもいい投手なので、真似できるところは吸収出来ればと思います」とライバルというわけではなく、高め合う存在として深沢を見ていた。
いよいよ悲願の頂点まで3勝に迫った。過密日程、球数制限等で厳しい条件下になるが、本田の快投を期待したい。
◆経験者たちの働きに期待
序盤から敦賀気比に突き放された三重の沖田監督は「何とか5回持ってもらえたらと思いましたが、流れがつかめなかったです。エラーを記録されてもおかしくない守備もありましたし」と試合を振り返った。
結果的に、先発した上山の6点は重いことになった。まだ2年生と秋以降も中心になるであろう先発した上山について、「調子悪くなかったと思います。今日は5回くらい持ってくれたらというプランでしたが、向こうのバッターが上でした」とあくまで敦賀気比打線が上だったと感じていたようだ。
ただ上山を含めて、「投手は2人、キャッチャー、控えのショートが代打でヒットを打ちました。秋の大会に向けて『甲子園は良いところだ』と伝えてやってほしいです」と秋季大会に向けて始動していくチームの中心となり得る下級生たちに期待を寄せていた。
◆2人の2年生投手で選抜も
ホームランを放った池田主将も「来年絶対に戻って来いよ」と後輩たちへメッセージを残しながら、2年生エース・上山には感謝の言葉もあった。
「上山がいなければ甲子園まで来られませんでしたので、『ありがとう』と伝えたいと思います」
8月も間もなく終わる。9月になれば早いもので、選抜に向けた秋季大会が始まる。チームとしては調整が難しいだろうが、甲子園に繋がる大事な大会であることは間違いない。上山は143キロ、谷公希は140キロと甲子園を経験した投手2人の実力は高いものがある。
先輩たちが見た甲子園の景色を目指して夏はもちろんだが、春の選抜にも出場することを期待したい。
(記事:田中 裕毅)