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順風満帆ではなかった作新学院の10連覇まで道のり。1年間の集大成を甲子園で

2021.08.19

 第103回全国高校野球選手権大会に、10大会連続16度目の出場を果たした作新学院
 夏の10連覇は史上3校目で、2016年以来の3度目の全国制覇にも期待が懸かるが、今年のチームはここまで決して順風満帆な道のりではなかった。

 昨秋の栃木県大会は、準決勝で石橋に2対3で敗退し、今春の関東大会でも主力選手を欠く中で浦和学院に1対8で7回コールド負け。10連覇のプレッシャー、そして「2年分の重み」に押しつぶされ、苦杯を味わい続けてきた。

 大会直前の6月、作新学院グラウンドには危機感の中で練習に打ち込む選手たちの姿があった。

ゼロからのチーム作りとなったオフシーズン

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出場最長10大会連続で甲子園出場の作新学院ナイン

 作新学院には、硬式野球部だけでなく、軟式野球部や女子野球部もある。学校の施設に室内練習場もあるが、硬式野球部が使えるのは専用グラウンドと総合体育館にあるウエイトトレーニング場のみ。梅雨の時期は、十分に練習ができない日も多々ある。
 取材に伺ったこの日も急な雨で練習を中断し、限られたメニューの中での練習となった。

 「小針監督が仰ることって、予言のように当たるんです。ここで点取れなかったら次逆転されるぞとか、ここ抑えたら勝てるぞとか、口にすることが怖いくらい全部その通りになります。その小針監督に、このままじゃ甲子園行けないぞと言われていて危機感しかありません」

 そう語るのは、エース左腕の 井上 力斗投手(3年)。
 「作新学院は夏には仕上げてくる」といった周囲の評判とは裏腹に、選手たちの表情には全く余裕が感じられない。

 昨秋の栃木県大会は、21世紀枠の候補校となった石橋の躍進が大きな話題となった。
 準決勝で対戦した作新学院は、初回に先制点を挙げたが、6回に満塁から走者一掃のスリーベースヒットを浴びて逆転を許す。打線は2回以降は内野ゴロの山を築き、4安打に抑えられて2対3で敗戦し、選抜甲子園出場を逃す結果となった。

 この敗戦を受けて主将の田代 健介選手(3年)は、オフシーズンはゼロからのチーム作りを進めてきたと振り返る。

 「甲子園のチャンスすら無かった、先輩たちの思いを背負って、絶対甲子園に行って校歌を歌おうと大会前からみんなで話していました。元々力はないチームでしたが、自分たちの野球も出来ずに負けてしまい、その思いを背負って全てにおいてのレベルアップをテーマに冬は取り組んで来ました」

[page_break:上位校から感じたスピード感の差]

上位校から感じたスピード感の差

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エース・井上力斗(作新学院)

 だが、一冬を越して気持ちを新たに臨んだ春季大会でも、作新学院は苦戦を強いられた。
 大会の序盤から苦しい展開の試合が続き、また1番打者の田代、そして3番打者の大房 建斗選手(3年)が怪我で離脱するアクシデントも。
 栃木県大会は準優勝こそ果たしたが、関東大会では初戦で浦和学院のパワーに圧倒され、夏に向けて課題の多く出る結果となった。

 春季栃木県大会決勝で敗れた佐野日大、そして関東大会で敗れた浦和学院からは、「スピード感の違い」を感じ取ったと語る田代。春季大会以降、これまで以上にトレーニングの量も増やし、スピード感の差を埋めることを意識してきた。

 「スイングスピード、走塁のスピード、その他にも全ての動きでスピード感が違いました。力負けしたことで相手との差を感じて、練習ではより強い打球を打つ意識や、キレを出すトレーニングを行うようになりました」

 その一方で、小針崇宏監督からは「一球を大切にする」精神面の声掛けも増えてきた。

 「走攻守、全てにおいて、一球を無駄にするなとよく言われます。バッティングでも、守備でも、走塁でも一球一球をただこなすのではなく、すべて実戦だと思ってやるようにしています。フリーバッティングは4カ所で行いますが、一箇所一箇所が試合の一打席だと思い、一瞬一瞬を大事にしていこうと常に監督さんは仰っています」

 そうした中で迎えた第103回全国高等学校野球選手権栃木大会。
 作新学院は、大会序盤から持ち前の試合巧者ぶりを見せ、また春以降に課題だったスピード感の面でも成長した姿を見せた。2回戦の栃木戦では6つの盗塁を決め、打撃でもここ一番での集中打。
 決勝戦では、春に敗れた佐野日大に競り勝ち、見事史上3校目の夏10連覇を達成した。

 そんな作新学院は、大会6日目の第4試合に登場し高松商と対戦する。
 秋から春、そして春から夏と成長を示し続けたチームの集大成に注目だ。

(取材:栗崎 祐太朗

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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