Interview

「相当、緊張した」佐藤由規のヤクルト時代の大一番とNPB復帰への思い

2021.04.02

 野球をプレーするうえではもちろん、生きていくうえでもメンタルの保ち方は大きな要素となる。ここぞの大一番や苦しい時、プロ野球選手たちは、どのようなことを意識してきたのだろうか。

 仙台育英高校からヤクルトへと入団し、2018年オフに楽天へと移籍。2021年シーズンからルートインBCリーグの埼玉武蔵ヒートベアーズでプレーする由規に話を聞いた。今回はインタビュー後編をお届けする。

「相当、緊張した」佐藤由規のヤクルト時代の大一番とNPB復帰への思い | 高校野球ドットコム前編はこちらから!
剛腕・佐藤由規が振り返る同僚との対戦と甲子園への想い【前編】

ヤクルト時代の大一番

「相当、緊張した」佐藤由規のヤクルト時代の大一番とNPB復帰への思い | 高校野球ドットコム
佐藤由規(写真提供=埼玉武蔵ヒートベアーズ)

 由規にとっての大一番はヤクルト時代の2016年にもあった。6月22日の巨人戦(二軍)である。

 当時、故障の影響で育成契約だった由規は支配下登録へ向け、イースタン・リーグで調整を続けていた。そんな中、真中 満監督(当時)や小川 淳司SD(当時)が、支配下復帰できるかどうかの最終チェックに来た試合である。

 当時の心境を尋ねるとすぐに口を開いた。
 「あの日、まだ覚えてますけど、相当緊張してたんですよね」

 高校時代から幾多の修羅場をくぐってきたであろう由規も緊張を隠せなかったようだ。
 「テストじゃないけど、前日とかちょっと前に視察が来るみたいな報道が出て。そこで良い投球を見せれば支配下になるって報道を見て、力が入ってしまった部分はありましたね。結果的に抑えることができたのでよかったけど。かなり気持ちが入ってましたね」

 結果は5回2失点(自責0)、8奪三振と文句なし。球速も151キロを計測した。この投球に首脳陣らはOKを出し、支配下に返り咲いた。

 人生を左右する可能性もある大一番に「相当、緊張した」状態で臨んだにも関わらず、しっかりと結果を残すことができたのはなぜだろうか。

 「緊張する状態を消すのは無理なので、無理に緊張を抑えようとせず、”緊張すればするほどうまくいく”とかそういった考えを持つのがいいかもしれません。自分の力以上のことはなかなか出せないんです。ぼくはピッチャーなので、バッターを抑えることに集中するしかない」

 緊張を無理に抑えようとせず、前向きに捉え、そして打者との勝負に集中することが秘訣と言えそうだ。

[page_break:目指すはNPB復帰]

目指すはNPB復帰

「相当、緊張した」佐藤由規のヤクルト時代の大一番とNPB復帰への思い | 高校野球ドットコム
佐藤由規(写真提供=埼玉武蔵ヒートベアーズ)

 新型コロナウイルスの影響で野球を取り巻く環境は大きく変わった。選手たちも例年と違う環境でトレーニングを行うことが増てている。ふだん通りのトレーニングができない、という点では怪我をしてリハビリをしている期間と近いのだろうか。

 「やっぱり怪我のときのほうが苦しいですね。怪我をしてないときは野球をしている最中に『あーしよう』とか『こうしよう』という悩みなんです。でも、怪我してるときは、そういう悩みではなく『投げたい』とかなんで辛いものがありました」

 同じ練習ができないでも、悩みの内容と性質が大きく異なっていたようだ。
 「だからこそ手術やリハビリをして投げられるようになったときは、技術的なことで悩めることが幸せかということを実感しましたね」

 苦しい時期があったからこそ、より多くの幸せを感じることができたのかもしれない。

 そのリハビリ中にはどのようなことを考えていたのだろうか。
 「ぼくはリハビリ期間が長かったので、いろんなことを考えてしました。どうしてもリハビリをしていると、目標だけが高くなってしまうんですよね。治って投げたら速い球を投げるとか、試合に勝つとか、0に抑えるとか…」

 一般的に目標を高く持つことは悪くないように思える。
 「でも実際はリハビリ中で投げることができていない状態なので、目標とのギャップを埋めるのが大変なんです。だから、できることを目標にしていました。目標を小さくするということですね」

 目標を小さくすることとは具体的にどういうことだろうか。
 「例えばですけど昨日、いい球が3球だったのであれば、次の日4球いったらOKといったように。地味なんですけどね。でも、そうやって成功例を増やしていくことが大事かなって」

 これは自身の体験に基づいている。
 「ヤクルト時代にも怪我してから、復帰してローテーションで投げてって目標が実際にあったんですけど、そこに全然届かない自分がもどかしくて。自分の首をどんどん締めてる感じでした」

 目標を高く持ちすぎたことで、現実とのギャップが生まれ自身を苦しめたという。
 「目標をどんどん小さくしていたら、すごい達成感があった。自分のなかで、リハビリが進んでいるような感覚になったんですよね。そういうのを感じられるようになって、気持ちが楽になり、前向きに捉えられるようになりました」

 怪我でリハビリ中はネガティブな感情になりがちだが、由規は目標を小さくもつことを意識しそれを克服。逆に前向きに捉えることができるようになったというわけだ。

 様々な話を聞いていると、由規はどんなときでも前向きだった。それは埼玉武蔵ヒートベアーズのユニフォームを着て戦う今年も変わらない。
 「NPBに復帰することが目標なんで、それに向けて練習している。でもBCリーグで試合するからにはチームとして優勝したいですし、勝利に貢献したい。そのためにも圧倒的なパフォーマンスを見せなきゃいけない」

 12球団合同トライアウト後にNPB球団との契約には至らなかった。しかし、前向きな気持ちを微塵も失っていないことがよくわかる決意表明。

 子どもの頃から培われてきた前向きな気持ちを持って新たなシーズンに向かう。

(記事=勝田 聡

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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