天理vs仙台育英
今年は達だけではない。大会随一投手陣を攻略し、天理が24年ぶりのベスト4
瀬千皓(天理)
絶対的エース・達孝太を擁する天理と、伊藤樹はじめ複数投手に加えて野手もタレント揃う仙台育英。全国区の名門校同士の一戦は、中盤で試合が決することとなった。
2対2で迎えた4回に天理は5番・戸井 零士が相手のミスで出塁したことを足掛かりに二死満塁から9番・政所 蒼太と1番・内山 陽斗の連続タイムリーで4点を奪った。
そこからは天理ペース。5、6回と連続して得点を重ねて仙台育英を突き放すことに成功。8回に1点を返されたものの10対3で天理が仙台育英から白星を挙げた。
試合前は投手戦が想定された一戦だったが、試合が進むにつれて天理が主導権を握り、優勢の展開が続く試合運びとなった。
序盤3回まではほぼ互角だった。天理が初回、仙台育英先発・古川翼を攻略して2点を奪うが、仙台育英も2回からエース・伊藤樹を投入し、3回には3番・八巻真也のホームランから2点を取り返す。これで互角の展開だと思われたが、中盤に雲行きは一気に変わった。
天理は相手のミスからチャンスを作って勝ち越し。続く5回も先頭を死球で出したところからチャンスを作って7番・杉下海生のタイムリー。さらに6回も先頭バッターがヒットで出たところから中軸までつないで、4番・瀬千皓のタイムリー。振り返れば初回の得点も四球から得点に結びつけていたことに気が付く。
この日の天理の得点パターンは相手のスキ、ミスを確実に突き、得点に結びつける。やられた仙台育英側からすれば、得点以上にダメージが大きい攻撃だったと言える。中村監督も戦前は「競ったゲーム展開になるので、ミスをした方が崩れる」と想定していた。
そうしたうえで仙台育英は「投手は良いですし、打線も迫力がある。さすが東北地区の優勝校だと思いました」と改めて仙台育英の戦力の高さを高く評価。実際にエース・達が早々にホームランを打たれるなど2失点。これには天理・中村監督も「達の調子もいまいちでしたので、『この試合はどうなるんだろう』と思いましたが、選手には『大丈夫だから』と声をかけていました」と内心では不安を抱えながらの采配だったことを明かす。
マウンドに上がっていた達も「最初から力任せに投げてしまい、ダメだった。今日の投球は0点です」と本調子ではなかったことを説明している。振り返っても最初から仙台育英打線に鋭い打球を飛ばされることが多く、点差が開く中盤までは達にとって苦しい試合展開だった。
それでも気がつけば大きく点差が開く展開。1つのミスから展開が大きく変わるのだから、野球はやはり怖いと再確認できた。ただこうして一瞬のスキを突いて一気に攻撃を仕掛けられたのは、何が大きかったのか。
「達が本調子ではなかったですが、いつも僕たちは達に助けてもらっているので、こういうときこそ野手が助けようと思っていました」(瀬千皓)
「達に頼ることが多かったですが、野手で頑張ろうと言っていたので良かったです」(内山陽斗)
以前、練習取材に行った際も瀬は同じことを語っていたが、今年のチームは達に頼りっぱなしになるのではなく助け合う。そんな姿勢が甲子園でも出来たことが、ミスに乗じた理想的な攻撃に繋がったのではないだろうか。
大会を通じて力を付けてきた天理。最後に中村監督はこんなコメントを残した。
「僕は現役時代、選抜はベスト8でした。だから選手には『ベスト4の景色を見せてくれ』と言ってましたが、本当にそうなるんですから嬉しいですし、そこまで勝ち進むとは思わなかったの、やっぱりで不思議なチームです」
監督も選手たちも知らない4強まで駆け上がった天理。春の頂点までは残り2勝。ここからの戦いぶりに注目したい。
(取材=田中裕毅)