筋肉をつけるとスピードが落ちるという誤解
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
この時期らしい寒さが続きますが、皆さんは毎日元気に過ごしていますか。新型コロナウイルスは社会生活に大きな影響を及ぼし、部活動においても例外ではありません。感染予防を行いながら、春のシーズンに向けてできることをしっかりと行っていきましょう。さて今回はトレーニング期に入ると一度は尋ねられる「筋肥大」と「スピード」の関係について、お話をしたいと思います。
筋肉と脂肪はどちらが重い?
同じ体積であれば筋肉の方が脂肪よりも重くなる
トレーニング期に入ると、まずは土台作りのために体を大きくすること=筋肥大を目的としてトレーニングプログラムを設定することが多いと思います。筋線維はトレーニングによる刺激によって太く、強くなり、体全体の筋肉量は少しずつ増えることが想定されます。
ここで筋肉と脂肪の比重について考えてみましょう。比重とは「大きさ(体積)あたりの重さ」のことで、水を基準値(1.0)とした数値で表されます。水を1.0とした場合、筋肉はおよそ1.1、脂肪はおよそ0.9程度といわれ、ざっくりまとめると筋肉は「水よりも重い物質」、脂肪は「水よりも軽い物質」ということが言えます。このことを知っている人にとっては「筋肉をつけると体重が増えて動きづらくなるのでは?」といった誤解をもたれるかもしれません。
トレーニングをすると足が遅くなる?
特に足の速い選手の場合、トレーニングをして体が重くなってしまうことは、自分の武器である「スピード」を失うことになるのではないかと考え、ウエイトトレーニングに対して前向きにならないことも考えられます。ウエイトトレーニングを続けていくと確かに体には変化がみられるようになり、「体が重くなった」「足が重くなった」と実感することもあるでしょう。
ここではトレーニングと実際の技術練習とのすり合わせによって、「変化した体」と「備わった筋力」をうまく使いこなせるように学習していく必要があります。走力は「ピッチ(回転数)」と「ストライド(歩幅)」によって決まってくるのですが、筋力が向上することによってピッチが増えたり、ストライドが拡がったりといったことが期待できます。また筋力が上がることによって、地面から得られる反力も増えることになり、より大きな力を得て体を動かすことが可能になります。
車のボディを体全体、エンジンを筋肉と考えてみるとわかりやすいと思います。軽自動車で軽自動車用のエンジンを積んでいる状態(体が軽く、主観的にスピードを感じる状態)から、普通自動車のボディとエンジン、さらにはレーシングカーのボディとエンジンへと性能を上げていくと筋力とともにスピードも改善されてより大きなパワーを得ることにつながります。
「軽自動車のボディにレーシングカーのエンジンを載せるともっと速くなるのでは?」と考える人がいるかもしれませんが、大きなパワーを持つエンジンを搭載するのであれば、それに耐えられるだけのボディが必要であり、ボディが備わっていないと動かすことによってそのパワーに耐えられず、故障(ケガ)をしやすくなると言えるでしょう。
[page_break:筋肉量を増やしながら体を大きくする]筋肉量を増やしながら体を大きくする
トレーニングで筋力アップをはかり、パフォーマンスに活かそう
トレーニングを続けていくと、まずは神経からの指令が筋肉へと送られる伝達能力が改善します(約1ヶ月~)。その後、筋肥大に伴う体重の増加や、見た目の変化なども現れるようになります(約2、3ヶ月~)。今日トレーニングを行ったから、明日体重が1㎏増えたというものではなく、トレーニングによる体の変化は少しずつ現れるものであると理解しておきましょう。
またオフシーズンのようにトレーニングに時間を割く割合が多い時期は、トレーニングと並行して食事量なども増えていることが考えられます。体が急に重くなったと感じるときは、トレーニングによる即時的な影響というよりは、ここ数日の食事量などによって影響を受けている可能性があります。また体脂肪ばかりが過剰に増えてしまうと、体重は増えたのに、体を動かす源となる筋肉量は変わらないため、「体が重い」「動きが鈍い」といった感覚になることも考えられます。
野球選手にとって体を大きくするということは、ただ単に食事量を増やして見た目の大きさを意識するものではなく、体をより力強く動かすための筋肉を増やすことです。このポイントがズレていると「体が大きくなったのに動きが悪くなった」という本末転倒な結果になってしまうかもしれません。スピードが落ちるのでは…と心配する選手に向けては、適切なトレーニング、栄養、休養によって体を動かすための「エンジン」が改良され、よりスピードアップが見込めることをぜひ覚えておきましょう。
【筋肉をつけるとスピードが落ちるという誤解】
●筋肉は「水より重く」、脂肪は「水より軽い」
●「変化した体」と「備わった筋力」をうまく使いこなせるように練習する
●筋肉量を増やすことは体を動かす「エンジン」を大きくすること
●急に体が重く感じたら、トレーニングよりも食事量などがより大きく影響しているかも
●体脂肪ばかりが増えてしまうと体は重く感じられることが多い
●スピードアップを目指すなら体を動かす「エンジン=筋肉」の改良を目指そう
(文=西村 典子)