Interview

ロマンしかない190センチの大型左腕・羽田慎之介(八王子)。才能を伸ばした指導方針

2020.10.19

 プロ野球ファンで東京都の学校出身の大型左腕といえば、河内貴哉(国学院久我山出身)を思い出す方が多いだろう。令和の時代になって河内と比較できるような左腕が現れた。その名は羽田慎之介(はた)。191センチ85キロと恵まれた体躯から投げ込む最速は144キロ。それも1イニングに1回は140キロを計測するという驚異の速球能力を持っている。来夏まで要注目の大型左腕の軌跡を追った。

羽田の才能を伸ばした安藤監督の指導方針

ロマンしかない190センチの大型左腕・羽田慎之介(八王子)。才能を伸ばした指導方針 | 高校野球ドットコム
羽田慎之介(八王子)

 一次予選からひそかに注目を浴びていた羽田。その潜在能力は本物だった。ワインドアップから始動し、勢いよく足を上げてから、大きく右足を踏み出していき、背中側に入るテークバックから、スリークォーター気味に腕を振っていく姿は、ランディ・ジョンソンを彷彿とさせる。

 八王子はチーム内でスピードガンで測る機会はなく、羽田自身も球速が分からない。スピードがすべてではないが、投手の実力を測る1つの指標である。先頭打者から140キロ台を連発。体全体をうまく使うことができていて、威力のあるストレートは手元で押し込む威力がある。勢いは、松浦慶斗大阪桐蔭)に匹敵するほど。

 こうして威力のあるストレートを投げられるようになったのは八王子入学後からの体づくりにある。東練馬出身の羽田は華奢で、身長187センチ体重71キロと細かった。ただこの1年で体重は80キロ台に達し、身長は191センチと今年に入っても伸び続けている。

 さらに変化球も面白い。120キロ台の曲がりが大きいスライダー、120キロ後半のカットボール、120キロ前後のフォーク、110キロ後半のチェンジアップ、100キロ台のカーブと実に多彩。しっかりとリリースできた時は面白いように空振りが奪える。

 ストレートだけではなく、変化球も一定以上の精度がある。ここまで書くと、こんな左腕がいるのかと驚くことだろう。ただ課題は制球力である。この試合では6四球とボール先行が多かった。

 ただ八王子の安藤監督はそれを咎めようとはしなかった。
 「もちろんボールが多くなると、それが通用しない相手に対して、本人になり工夫しないといけないと思います。ただ彼の場合、体がまだ大きくなっている途中で、フォームもまだ固まっていない段階なので、体ができたときにフォームも安定するとみています」

 八王子高校の投手といえば、2016年夏の甲子園に出場に貢献した左腕エース・早乙女大輝(明星大)、昨年のエース・北沢壮汰など制球力が優れ、駆け引きが長けた投手が多い。安藤監督は羽田に対し、これまでの左腕エースと同じ要求はしていない。

 「投手にはいろいろなタイプがあって、今までの投手は、ボールの威力がないことを制球力、変化球で補っていたと思います。ただ欠点とすれば、ボールの威力がなく、ホームランを打たれやすい。羽田は今までの投手には絶対的なボールの威力があります。コントロールやゲームメイクという点については体ができて、フォームも安定し、力のあるストレートをコントロールよく投げられるようになってから考えればいい話で、逆に球速を落として、コントロールよく投げることはつまらない投手になってしまうのかなと。
 これほどのスケールがあって、力のあるボールを投げられる投手は過去にいません。彼だけにしかない特別な個性があるのに、それを潰してはいけないと考えています。今は力のあるストレートを磨いてほしいと思っています」

 大型左腕の育成は非常に難しいといわれる。このように先を見据えて、個性を尊重する安藤監督だからこそ羽田は才能を伸ばすことができたのだろう。

[page_break:言われてではなく、自分なりに工夫してまとめる投球]

言われてではなく、自分なりに工夫してまとめる投球

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羽田慎之介(八王子)

 安藤監督は大きく育てたいという思いがあるが、羽田自身は「このままではいけないですし、フォアボールが多かった」と反省する。とはいえ、試合全体を見ると自分の欠点を克服しようとする姿勢が見て取れた。

 この試合、3回裏に甘く入ったカットボールを捉えられ、3ランを打たれたが、カットボール、スライダーの割合を減らして、チェンジアップ、フォークの割合を増やし、さらに投球フォームにも変化があった。

 羽田は通常、ワインドアップから始動するが、6回以降はノーワインドアップからゆっくりとセットポジションに近い足上げを行ったり、追い込んでからは再びワインドアップとカウント別でフォームに強弱をつけていた。こうした工夫が功を奏し、8回まで投げて10奪三振、3失点の力投を見せた。

 都立富士森戦は羽田の良さ、悪さも出た試合だった。

 次は国士舘と対戦する。今までのようにボールの威力だけで通用する相手ではないだろうか。安藤監督はそれも承知の上で、「ダメだったら夏へ向けて頑張ればいいんです」と語った。

 羽田しかない角度と威力を兼ね備えたストレートで思い切りぶつかっていく。1つ言えることは、来年夏まで徹底追跡をしていかなければならない投手だということ。安藤監督の期待通り、スケール抜群の大型左腕として都内、そして全国を騒がせる左腕になれるか注目だ。

取材=河嶋 宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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