「ユニフォームを着た試合をさせてあげたい」 少子化と向き合う成章(愛知)の苦しい現実
写真は2019年10月 愛知産大三河戦から
愛知県の場合は、春休みとなった3月21日あたりから、1日2時間程度を目安として、公立校の場合でも部活動が行われていたところが多い。2008(平成20)年には小川泰弘投手(現ヤクルト)を擁して21世紀枠代表となり、甲子園初勝利も果たしている成章も、4月4日までは、少しは練習が出来ていた。しかし、渥美半島の中腹の田原市に学校があるのだが、休校要請が再度発せられたことで、以降は一切学校での練習は出来なくなった。
「状況は、田舎であっても他の学校と同じです。苦しいですね」
と、ため息をもらすのは野球部のOBでもある河合邦宗監督だ。
学校としても、2週間に一度くらい宿題の提出ということで生徒は学校に来ることもあったが、2時間以内の滞在しか認められていない。バスや電車の関係もあって9時と11時と分けて登校し、プリント配布などしてすぐに帰宅ということになっている。
最低限、これだけのことはやろうということを選手2~3人くらいのグループでまとめて連絡を取り合えるようにしてそれぞれで確認し合っているというのが日常だ。現実には、都市部ではないので、グラウンドそのものは「密」にはならないのだが、やはり社会的なことも考慮して、グラウンドには立ち入らないということは決めている。それでも、渥美半島の中腹という土地柄、ランニングコースやトレーニング場所は比較的あるといってもいいであろう。
「夏に対しては選手たちの皆が不安であることは分かっています。だけど『~~かもしれない』ということではモノは言わないようにしています。決まったことは伝えますけれども、推測や憶測ではあえて伝えないようにしています。期待させておいて、落とすということになったら、もっと可哀想ですし、自分としても嫌ですから」
河合監督は、そんな言葉かけへの配慮もしている。
「長い教員生活ですけれども、これだけ生徒たちと触れ合えていないということはありませんでしたから、それがやはり辛いですね。だけど、自分がネガティブになってはいけませんから、いたって明るく対応するようにはしています」
そんな河合監督だが、先を見据えると、もう一つ別の不安もあるという。それは渥美半島全体の問題でもある過疎化に伴う少子化だ。成章の場合も、1クラス減って普通科3クラス、情報ビジネス科と女子がメインの生活文化科がそれぞれ1クラスの5クラスとなった。そんな状況で、野球部としては、何とか10人、可能であれば15人くらいは確保したいという。今年の新入生は、スポーツ推薦などで事前にわかっているのが11人。何とか最低限目標は確保したが、あと一般で何人を上積みできるのかというところは、休校が続いているので把握しきれていない状況だという。
少子化で、生徒減少というのは近隣の福江、渥美農も含めて、切実な問題だ。一時は人口増加の原動力となっていたトヨタの田原工場がリーマンショックなどでの不況からの工場縮小となっていることだ。それが、今回のコロナ禍で、さらに進んでいくことも予測される。
そんな中で、少しでも野球の魅力を伝えて、野球をやりたいという小学生~中学高校生を育てていかないと…という気持ちもある。
「試合がないというは、それを子どもたちに見せられないですからね。野球はサッカーと違って体育にないですから、余計に高校野球の試合で野球の面白さや楽しさをアピールするしかないんですよ。それが出来ないと、ますます部員減少に拍車がかかってしまわないかと心配です」
そんな嘆きもあった。それでも、今のこの現状に対しては強い思いを語ってくれた。
「どんな形でもいいですから、時期がずれ込んだって構わないと思っています。ここまでやってきた子たちに気持ちの整理をさせてあげたいです。三河地区だけでも、最悪の場合、東三河地区だけでもいいですから、何とか3年生たちに『成章』のユニフォームを着た試合をさせてあげたいと思っています」
(取材=手束 仁)
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